研究概要 |
哺乳類細胞質ダイニンが一方向性の運動を示す要因を探るため,ダイニンの一方向性の獲得においては,荷物となる物質の結合や負荷の存在が必要であるという仮説を立て,DNAの自己集合を利用した構造体(DNA-Origami:直径~6nm,長さ~410nmのチューブ構造)を負荷としてダイニンに結合させた際の運動を観察した.その結果,DNA-Origamiを荷物として結合させたダイニンは一方向性の運動を示し,ダイニンが運動の一方向性を獲得する要因として負荷が重要であることが示された. 上記の結果を受けて,ダイニン分子に対して負荷がどのような影響を与えているのかを調べるために,光ピンセットによってダイニン分子に負荷を与えた際の微小管との結合力の変化を調べた.これは現在進行中の実験および解析であるが,ダイニンモーターヘッドが負荷が強くなるほど微小管から解離しにくくなる傾向が既に観察されている.通常のタンパク質間相互作用においては,外部負荷の存在は解離を促進する方向に働くのに対し,ダイニンが示すこの特異な負荷応答性は,負荷の存在に応じて運動の様式を拡散から一方向性のものへ変化させるダイニンの運動機構の理解に直結するものと予想される. また,全長の細胞質ダイニンに対する負荷の影響の観察と並行して,組換え体の発現技術を用いた運動様式の変化についても実験を行った.現在までに,モータードメイン以外のフレキシブルな部分が長くなるほど運動が拡散的になるという傾向が観察されており,頭部間に働く張力が運動に影響を与えるという可能性を示唆している.
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今後の研究の推進方策 |
ダイニンへの負荷の大きさと微小管との結合力の関係に関する実験を更にすすめ,定量的な関係を得ることを目指す.また,得られた関係を用いることで,ダイニンの負荷依存的な一方向性の運動の現出という事象に関する定量的な議論を構築し,シミュレーションも併用することで,最終的にはダイニンの運動メカニズム全体に関する統一的な描像を得ることを目標とする.
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