研究概要 |
最新の理論計算化学(Gaussian09)を用い、ケイ素及びホウ素置換ベンザインの位置選択性発現機構のメカニズムを解明することを目的とした。まず、基底状態のベンザイン及び反応剤の電子状況を調べることにより、化合物が本来持つ電子的性質を調べた。しかし、基底状態の電子状態だけでは選択性発現の原因を完全に明らかにすることはできなかった。そこで次に、syn体、anti体それぞれを形成する遷移状態を計算することで、各遷移状態のエネルギーを求め、そのエネルギー差を算出し、選択性の理論値を求めた。この遷移状態の構造を見ることで、通常電子的な相互作用によって選択性が考えられるDiels-Alder反応であるが、ベンザインを用いた場合には電子的効果及び立体的効果の両者が選択性を決定しており、ケイ素置換ベンザインでは立体効果が非常に強く表れるのに対し、ホウ素置換ベンザインでは電子的効果も強く表れることがわかった。このように、ケイ素及びホウ素置換ベンザインの選択性の原理を計算化学を用いることでおおよそ理解することができた。 光学活性なジオールを用いることで、光学活性なホウ酸エステル部が置換したベンザインを発生させることができた。このベンザインと置換フランとのDiels-Alder反応を種々検討したところ、現時点ではジアステレオ選択性はほぼ1:1となった。一方で、光学活性な置換基を有するフランとの反応では、わずかながら選択性が発現した。 ホウ素置換ベンザインとアミン類との求核付加反応を検討中に、ホウ素上の置換基を変えることで2通りの位置異性体の作り分けができることが分かった。すなわち、1,8-ジアミノナフタレンが結合したホウ酸部を有するベンザイン前駆体に高極性溶媒(HMPA)を用いるとオルト位に選択的に、ピリジンを溶媒に用いた際にはメタ位に選択的に付加した。
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