研究課題/領域番号 |
11J10896
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
深谷 直人 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 反強磁性ホイスラー合金 / Ru_2MnGe / ネール温度 / MgAl_2O_4 / 歪効果 |
研究概要 |
本年度は反強磁性ホイスラー合金のスピントロニクス応用へ向け、ホイスラー合金を用いたトンネルデバイスを作製するために以下の実験を行った。 (1)本研究ではこれまでの実験結果でMgAl_2O_4基板がホイスラー合金と格子整合性がよく(格子ミスマッチ+0.7%)、非常に結晶性の良い薄膜が作製でき、またその界面にはデバイス特性のることを示した。従ってホイスラー合金を用いたトンネルデバイスの絶縁層としてMgAl_2O_4薄膜が最適であると考えられる。MgAl_2O_4のような酸化物薄膜の成長には酸素量の精密なコントロールが可能である反応性スパッタリングが有効である。反応性スパッタリングを用いて酸素量を最適化することでホイスラー合金との欠陥のないヘテロエピ成長が可能な完全格子整合絶縁性障壁層MgAl_2O_4の作製に関する新技術を開発した。 (2)これまでの研究で歪効果による反強磁性ホイスラー合金Fe_2VSiの磁気転移温度(殊)の大幅な上昇が得られたが最大で200K程度であり、実用上室温以上のT_Nを得ることが求められる。そこでT_Nが室温程度と報告されている反強磁性ホイスラー合金Ru_2MnGe(T_N=316Kに着目し、Ru_2MnGe薄膜を作製して歪を印加することにより更なるT_Nの上昇を目的としたところ、最大で353Kとこれまで報告されている反強磁性ホイスラー合金で最も高いT_Nが得られた。よって反強磁性ホイスラー合金薄膜の重要な物理パラメータである高い反強磁性ネール温度(T_N)が得られた。またデバイス応用へ向け反強磁性ホイスラー合金を用いてホイスラー合金系ハーフメタル/反強磁性積層構造の作製技術を確立した。 以上の結果から、トンネル素子に必要なトンネルバリアの作製((1))、またホイスラー構造を持つ高品質な強磁性仮強磁性積層構造((2))に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標とするトンネル磁気抵抗素子へ向け、23年度に(1)完全格子整合絶縁性障壁層MgAl_2O_4の作製技術の確立、また(2)ホイスラー構造を持つ高品質な強磁性/反強磁性積層構造の作製技術を確立した。これらの成果により24年度には実際にトンネル磁気抵抗素子を作製することが可能となり、計画通り素子特性の評価に移行できることから(2)の達成度とした。
|
今後の研究の推進方策 |
今後デバイス応用へ向け、トンネル磁気抵抗素子を作製しそのトンネル伝導、磁気抵抗効果等の素子特性の評価を行う。その際、絶縁性障壁層の耐電圧性やトンネル素子膜の平坦性、またトンネル素子に微細加工する際の加工プロセスの問題により、本来の素子特性が大幅に減少してしまう可能性が予測される。従って十分平坦なトンネル素子膜を作製した後、絶縁性障壁層の酸素量の微妙なコントロールとそれにダメージが入らないように微細加工条件を最適化する必要がある。これら特性劣化の原因を極力取り除き、反強磁性ホイスラー合金を用いたスピントロニクスデバイスのポテンシャルを検討する。
|