ステモフォリンは、Stemona japonicaから単離構造決定されたステモナアルカロイドである。本化合物および類縁体には殺虫作用や子宮収縮抑制作用、胃の悪性腫瘍細胞に対する細胞毒性など興味深い生物活性が多く存在する。また、低分子量ながら極めて特異で複雑な骨格を有しており合成化学的にも非常に興味深い化合物である。我々は、このような特徴を有する本化合物の効率的な初の不斉全合成を達成すべく合成研究を行なった。 本年度は前年度に合成をしたアリルスルホキシドを用いてアニオン環化反応の検討をまず行った。原料に対してLHMDSを作用させた後、TMSClを作用させたところ驚くべきことにTMS基が2つ導入された環化体が得られることが判明した。得られた化合物は当初想定していた化合物とは異なっていたが、意図せずして導入されたシリル基を活用することを試みた。すなわち得られた化合物に対して加熱処理を施したところSila-Pummerer反応が進行しチオエステルを得ることに成功した。さらにTMS基の除去と環化反応を行いラクトンへと導いた。しかしラクトンのα位に対してメチル基の導入を行ったところ、目的の立体化学とは逆であることが分かった。そこで別の方法を試みた。当研究室で発見されたトリエチルシランを用いた還元反応を適用することでアルデヒドへと導き、さらにメチル基の導入と異性化を行うことで目的の立体化学を有するメチル化体を得た。そしてラクトンへと変換を行い、ステモフォリンが有する主骨格の構築を完了した。 また、一方でモデル化合物を用いたγ-イリデンテトロン酸骨格の新規構築法を開発した。ラクトンをまずチオノラクトンへと変換後、トリフルオロメタンスルホン酸メチルで活性化を行い、プテノリドのアニオンを作用させることでγ-イリデンテトロン酸骨格が構築できることを見出した。
|