研究課題
【研究I言語学習支援】自閉症スペクトラム児に対して有効な語彙学習方略を同定するため、今年度は、特に、一場面では学習成立のための確定的な手がかりがなく、通状況的に証拠を蓄積することが必要な「通状況的語彙学習」について検討を行った。報告者らのこれまでの研究により、この通状況的語彙学習は、自閉症スペクトラム児においても有効であるという結果が得られているが、視覚刺激が機械的なものであったため、自閉症スペクトラム児が得意であった可能性が考えられた。本年度は、定型発達児を対象に、視覚刺激として人間の顔を用い、予備的な実験を行い、現在データを解析中である。自閉症スペクトラムは、顔の記憶が苦手であると報告されているが、来年度は、上記の解析結果をもとに、顔とその名前を覚える際に、通状況的学習が有効かどうかを検討する。この研究の一部は、2012年5月にトロントで開かれる11th Intemational Meeting for Autism Researchで、ポスター発表として査読を通り、採択された。【研究IIメカニズム解明】生後1週間に満たない新生児が顔状刺激への選好を示すことが報告されており、これが後の社会性の発達に重要であるとされている。今年度は、自閉症スペクトラム児と定型発達児を対象に、顔状刺激の処理過程について、評定課題と脳波を用いた事象関連電位測定を行い、検討を行った。評定課題の結果から、自閉症スペクトラム児も定型発達児と同様に、顔状刺激を顔らしいと判断することが明らかとなった。また、脳波を用いた顔状刺激に対する事象関連電位の結果から、定型発達児においては、顔に選択的に反応する脳波成分であるN170が顔状刺激に対しても振幅が増大することが確認されたが、自閉症スペクトラム児においては、そのような顔状刺激に対するN170の振幅の増大が見られなかった。以上の成果は、国際学術誌へ投稿準備中である。また、自閉症スペクトラム児と定型発達児を対象に、顔やモノに対する選好性についてアイトラッカーを用いて注視時間などを記録したデータを解析しており、どういったモノに興味を持つのかについて定量的に検討中である。
2: おおむね順調に進展している
自閉症スペクトラム児に有効な語彙学習方略の同定、顔状刺激への反応についてのデータ収集が順調に進んでおり、今後の国際学術誌への発表についても進行中であるため。ただし、研究の遂行にあたって、国際基準のアセスメントツールであるADOS(Autismn Diagnostic Observation Schedule)の資格取得をする予定であるが、欧米でのセミナーに参加する必要があり、どのセミナーも予約がとれないほど混み合っている状況で、その点については、進行が遅れているといえる。
自閉症スペクトラムの早期発見および療育のために、学齢期以前の幼児を対象とし、認知心理的実験を行い、実証的な研究を進める予定である。自閉症スペクトラムの診断は、現在の診断システムでは3歳以前に行うのは難しいとされていることから、低年齢の参加者を確保することは難しいため、他研究機関との連携を増やして共同研究も行っていく予定である。アセスメントツールの資格取得については、セミナー開催の情報を積極的に収集し、応募する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
Research in Autism Spectrum Disorders
巻: 5 ページ: 1230-1242
10.1016/j.rasd.2011.01.013
Journal of Autism and Developmental Disorders
巻: 41 ページ: 629-645
10.1007/s10803-010-1082-Z
巻: 5 ページ: 1264-1269
10.1016/j.rasd.2011.01.021