研究概要 |
降雨や地震による地盤の変形・破壊挙動は不飽和地盤の複雑な浸透-変形連成動的現象であり,両者の影響を同時に考慮した検討はこれまであまり行われていない。これに対して本研究では,動的不飽和浸透-変形有限要素解析手法を開発し,実際に起こった被害事例の計測データとの照査によって解析精度を裏付けた上で,降雨・地震時の実地盤の変形・破壊予測の実現を目的とする。今年度は,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による,関東地域の深刻な液状化被害,東北地方内陸部の盛土宅地の斜面崩壊,決壊した貯水池ダムなどの現地調査を行った。このような自然災害の情報は復興対応や防災・減災技術の発展に不可欠であるため,迅速かつ正確に集積する必要がある。そこで本研究では,航空・長距離レーザー計測システムを用いることで,広範かつ面的な情報として被害の定量的な評価を試みた。液状化の被害地域で行った航空測量より,液状化起因の地盤沈下(震災前との標高差)と宅地および地下埋設ライフライン被害位置に相関を見ることができた。また貯水池の決壊したダム堤体のレーザー測量より,締固めで築造されたダム堤体は,堤体盛土高さが最大となる箇所において貯水池側への滑りによって天端高が低下し,越流が発生したため決壊したことが推測された。これらのデータは,来年度以降に行う解析精度の検証にも有効となる。 泥岩起源の土のスレーキング(乾湿繰返しに伴う土粒子の細分化)に関して,本研究では一面せん断試験機を用いた乾湿繰返し時の土の変形・強度特性を調べた。結果より,乾湿繰返しの度にスレーキングは進行し,異方応力状態ではせん断変形・体積変化が生じること,地盤強度が徐々に低下することが分かった。このようなスレーキング特性に関しては,研究代表者が既に開発している不飽和土のモデル化と同様の手法(粒度による限界状態線の移動)によって,表現できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は東北地方太平洋沖地震の調査と並行して,土・水・空気三相系の動的不飽和浸透-変形有限要素解析コードを開発している。数値解析コードの適用先には,23年度に調査を行った東京湾岸の埋立地における液状化解析や決壊したダム堤体の解析などを考えており,レーザー計測結果との照査により解析精度を検証できると考える。しかしながら,このような複雑な実地盤の解析を行う前に,よりシンプルな境界条件を与えることができる振動台実験(受入研究機関所有)での検証を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
地盤材料の構成モデルに関して,不飽和土特性を適切に考慮することにより,地盤の締固め(締固め曲線,最適含水比)を表現できることを既に確認しているが,それらを定量的に評価するため,締固めを再現した要素試験から構成モデルの検証を行う。また,地震応答解析には液状化の表現は不可欠であり,そのためには研究代表者が開発している誘導異方性を表現する構成モデルを拡張する必要がある。これら構成モデルの改良と並行して,乾燥砂を用いた境界条件がシンプルな振動台実験を行い,開発済みの数値解析コードの検証を済ませておく。その後,地盤内状況の把握および境界条件の設定が容易な人工土構造物(盛土等)の降雨・地震応答解析,自然斜面の解析へと進めていく。
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