研究概要 |
本研究では1型糖尿病モデルマウスを実験対象として,運動が糖尿病時の循環調節機能に与える影響を検討する.特に血管内皮機能に着目し,独自の手法を用いて血管機能を明らかにするものである.平成24年度は,初年度に構築した(1)マウスin vivo下肢血管造影法と,(2)大腿動脈血流の直接測定法を用いて糖尿病モデルマウスの血管内皮機能低下に対する運動トレーニング効果を明らかにした. (1)麻酔下マウス左下肢血管をX線イメージングシステムを用いて撮影した.血管内皮細胞機能の評価には,アセチルコリン(ACh,内皮依存性血管拡張薬)の静脈内投与を行い,薬理的な血管拡張反応を観察した.正常マウスに比べて糖尿病マウスで血管拡張応答が低下していた一方で,4週間のトレッドミル運動トレーニングを行った糖尿病マウスでは血管拡張応答が改善した.それらは血管径によって異なる応答を示し,より細い血管においての応答が顕著であった.in vivoにおいて太い血管から細い血管までを同時に観察可能な本手法による評価は,これまではin vitroにおいて個別に測定されてきたサイズの異なる血管の応答を統合的に理解するための重要な知見となりうる. (2)超音波血流計を用いてマウス大腿動脈血流の直接測定を行い,血圧一血流関係から下肢血管抵抗を求めた.麻酔下マウスの左大腿動脈に血流プローブを留置し,ACh静脈内投与による血圧・血流量の変化を同時測定した.正常マウスと比べて糖尿病マウスでは血管コンダクタンスの変化が有意に小さかったが,運動トレーニングによって改善する傾向にあった.血管造影では可視化できない細小血管も含めた下肢全体の血管機能においても,糖尿病に対する運動効果が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において構築したマウスin vivo下肢血管造影法を用いて,糖尿病モデルマウスの血管内皮機能に対する運動トレーニング効果を明らかにした.また,発展的研究として超音波血流計を用いた大腿動脈血流の直接測定を行い,下肢血管抵抗を機能評価の指標として加えた.これら本年度の研究成果は当初の研究目的をおおむね満たしており,今後は,これらに併せて呼吸・代謝調節についての実験課題を遂行する.
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今後の研究の推進方策 |
新たに構築する自発運動中のマウス呼吸測定システムを用いて,糖尿病が呼吸・代謝調節に与える影響,およびそれに対する運動トレーニング効果を明らかにしていく.小動物の呼吸・代謝測定についてより理解を深めるため,米国ペンシルバニア州立大学医学部・Haouzi, Phihppe教授に師事し,実験手法・測定システムの検討を行う.それと同時に,大・小動物の呼吸代謝調節に関連した新たな発展的研究も行う.
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