研究課題
初期発生に見られる形態形成過程の1つ、神経管閉鎖において、アポトーシス及びアポトーシス実行因子であるカスパーゼの活性化が重要な役割を果たすことが考えられてきた。これは、カスパーゼ欠損マウスが高頻度で外脳症や無脳症を示すためである。しかしながら、従来の組織切片による静的な観察では、動的な神経管閉鎖過程におけるカスパーゼ活性がその過程で具体的にどのような機能を果たすのか知ることができなかった。そこで、カスパーゼ活性化検出プローブであるSCAT3を全身で発現するトランスジェニックマウスを用いてライブイメージングとその解析を行い、カスパーゼ活性化が神経管閉鎖の進行に与える影響につて検討した。その結果、カスパーゼ活性化阻害下において神経管閉鎖速度の低下が観察され、神経管閉鎖速度の調節にカスパーゼ活性化が関与する可能性が考えられた。本年度は、神経管閉鎖期に見られるアポトーシスの詳細を知るために、イメージングデータのより詳細な観察を行った。その結果、神経管閉鎖中のマウス胚において、少なくとも2種類のアポトーシスが起きていることが明らかとなった。この2種類のアポトーシスの相違点は、カスパーゼ活性化後の細胞の振舞や、活性化しているカスパーゼの種類などに見られる。このことから、2種類のアポトーシスが、神経管閉鎖に対して異なる影響を及ぼしている可能性が考えられる。現在は、見つかった2種類のアポトーシスが、それぞれ神経管閉鎖にどのような影響を持つのかを明らかにするため、組織特異的なアポトーシスの阻害実験や、高解像度ライブイメージングによるアポトーシスの組織に与える影響の検討などを行っている。本研究の成果は「第44回日本発生生物学会(ポスター発表)」をはじめとした複数の学会・研究会で発表した。さらに、本年度までの成果をまとめることで「The Journal of Cell Biology(Vol. 195, Dec, 12)」に発表することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、今後の解析に用いるマウスについて良好な傾向が得られている点に加え、これまでの結果をまとめた論文を発表することができた。また、その過程でこれまでの実験では得られなかった新たな興味深い結果を得ることができた点で、前進したと考えている。
本年度は、アポトーシス及びカスパーゼ活性化がどのように神経管閉鎖速度を調節しているのか、という点について研究を進めていく予定である。まず、神経管閉鎖速度の調整に寄与するカスパーゼ活性化領域を、Cre-loxPシステムを用いて、明らかにしていく。また、以上により特定された領域について、アポトーシス細胞が組織に与える影響を検討するため、1細胞レベルの高解像度イメージングを行い、解析していく予定である。高解像度イメージングでは、得られたデータの解析方法や対物レンズの取扱いなど、これまでのライブイメージングより技術的に困難な点が多く想定される。そこで、データの解析方法に関しては、画像データ解析を行っている研究室と共同研究を行うことで、その手法を確立していきたいと考えている。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Journal of Cell Biology
巻: 195 ページ: 1047-1060
10.1083/jcb.201104057