研究課題/領域番号 |
11J11124
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
湊 雄一 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 構造生物学 / 核磁気共鳴法 / 膜蛋白質 / シグナル伝達 |
研究概要 |
本研究では、大腸菌走化性分子複合体の結合様式を、各構成蛋白質が正しい全体構造を保持した状態にて、溶液NMR法による構造生物学的解析を行うことにより、膜外から膜内のエフェクター分子にシグナルが伝達される機構を解明することを目的とする。昨年度までに、区分安定同位体標識法により、全長CheAのPlドメイン選択的に安定同位体標識を施す試料調製法を確立した。今年度は、本標識法を用いて、全長CheAとCheYの相互作用をNMR法により調べた。交差飽和実験の結果、CheAの活性ドメインであるPlドメインとCheYは、切り出したドメイン単独では親和性が弱く、結合できないにもかかわらず、全長では両者の活性部位同士が直接結合することを明らかとした。さらに、全長CheAに対してCheYを滴定するNMR実験を行い、CheA-CheY複合体中で、P1ドメインはCheYと結合した状態と解離した状態の平衡状態にあることを明らかとした。この平衡が存在することによって、PlドメインはCheYだけでなく、ATP結合ドメインであるP4ドメインとも反応し、リン酸をP4ドメインからCheYへと連鎖的に受け渡すことが可能になると考えた。このような結合様式は、一般に弱い相互作用ネットワークを形成する、シグナル伝達分子複合体の相互作用様式を解明する上でも重要な知見を与えると考えた。また、CheAの活性が膜蛋白質MCPによってどのように制御されるかを調べるためには、CheAのP3-P5ドメインの構造変化様式を調べる必要がある。そこで今年度は、CheAのP3-P5ドメインのIle,Ala,Met側鎖メチルシグナルの、変異体による帰属を試みた。現在までに29残基の帰属に成功した。帰属済みの残基には、ATP結合部位近傍の残基も含まれていた。今後これらの残基を用い、ATP結合部位周辺の構造変化を高感度で検出できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
全長CheAとCheYの相互作用解析を行い、細胞内における走化性分子複合体の結合様式を明らかにすることに成功した。さらに、CheAのP3-P5ドメインのメチルシグナルの帰属に着手し、特にATP結合部位近傍の残基の帰属を得ることに成功したことから、今後膜蛋白質存在下での走化性分子複合体のNMR解析を行う基盤を整備することができた。これらの達成度から、研究の目的と照らし、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、CheAのP3-P5ドメインのIle,Ala,Met側鎖メチルシグナルの帰属を行い、29残基の帰属に成功した。 今後は、シグナルの帰属を進めるとともに、特にATP結合部位周辺や、MCPやCheWとの結合に重要な残基に着目し、複合体形成時やMCPのリガンド存在下で、複合体内の相互作用や自己リン酸化に関与しているCheAドメイン間の相互作用がどのように変化するかを、NMR法を用いて詳細に調べる。
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