研究概要 |
本研究の目的は,視覚情報における認知的制御機構を明らかにすることである。本年度は,視覚情報におけるその機構が半球に寄与するのか空間に依拠するのか,それとも二つの機構によって行われるのかを明らかにすることを目的とした。これらを検討するため,刺激-反応適合性パラダイムで用いられる適合性効果を認知的制御が行われた程度として扱った。これは文脈によって変動し,競合頻度が低い事態に比べて,それが高い事態に減少することが明らかとなっている。 そこで,視覚刺激を左右視野間(半球間),上下視野間(半球内)に呈示し,適合性効果の変動に注目した。実験では,左右もしくは上下視野間に対して競合頻度(一致試行出現確率)を操作したフランカー課題を用いた。例えば,左右視野間条件では左視野において低競合視野(一致試行75%),右視野においては高競合視野(一致試行25%)となるように操作し,上下視野間条件では,上視野において低競合視野,下視野において高競合視野となるように操作した。さらに,課題経験の側面からも制御機構に及ぼす影響を検討するため,課題前後半の競合頻度を切り替えた。 実験の結果,左右視野間条件では,課題前半にのみ競合頻度に応じて適合性効果が変動したのに対し,課題後半ではそのような変動は見られなかった。これは,課題前半で行われる制御が各大脳半球に寄与したことによって後半に対しても持続したため,変動が効果として生じなかったと解釈できる。反対に上下視野間条件では,課題前半では適合性効果は変動せず,後半においてのみ変動した。これは,空間に依拠した視覚情報選択性の調整が,適合性効果の変動として観察するためには,ある程度の課題経験が必要な可能性を示唆している。これらの結果から,視覚情報選択性の調整には半球に寄与して行われる機構と共に,制御過程の異なる空間に依拠して行われる機構の二つの機構がある可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動指標を用いて,刺激呈示空間の競合頻度に依拠して認知的制御が行われることを明らかにした。それだけではなく,左右呈示,上下呈示に対する制御過程が異なることから,二つの制御機構の可能性を示唆した。それだけではなく,これらの制御には参加者の顕在的な文脈では行われにくく,より潜在的な競合頻度文脈によって行われることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,行動指標を基に視覚情報における認知的制御機構を明らかにする。これまでの知見だけでは,半球に寄与しているわけではなく,左右視野特有の制御機構によって行われたと解釈することもできる。そこで,ラテラリティ研究の視点を取り入れ,各半球に起因して行われる課題を用いて半球に寄与する制御機構を明らかにする。もし,半球に寄与して制御が行われるのであれば,制御過程においても大脳半球機能差が見られるはずである。そして,それらの知見を基に,事象関連電位を用いて,生理指標の視点から制御機構を解明する。特に,前部帯状回に関連すると言われるN2成分に注目する。
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