研究課題/領域番号 |
11J30004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹村 浩昌 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 視覚 / 視覚運動 / 心理物理学 / fMRI / 誘導運動 / 運動透明視 / hMT+ |
研究概要 |
1、誘導運動による運動透明視の変調 複数のオブジェクトが同一視野上で動く場面は日常生活でも多く、同じ視野上の2方向の運動を同時に知覚する現象を運動透明視と呼ぶ。しかし、運動方向が近い2方向の成分が同一の視野上に現れた場合、2方向が混ざってしまい、運動透明視として知覚されない。本研究では、背景の運動の影響で見えの運動方向が変わる場合(誘導運動)、運動透明視の知覚が変化するかを心理物理実験により調べ、運動透明視と誘導運動の関係性を検討した。 結果、周辺の刺激を適切な方向に運動させることにより、通常では混ざってしまい同時に知覚できない2方向の運動成分を同時に知覚できるようになることが明らかになった。このことは、2方向の視覚運動信号を同時に知覚できるかどうかに、誘導運動のメカニズムが強く影響していることを示唆する。この成果はJournal of Visionに原著論文として掲載された。 (2):fMRIを用いた誘導運動の神経相関に関する検討 主観的な誘導運動知覚と神経活動を直接比較するため、機能的核磁気共鳴画像法を用いて誘導運動知覚時のヒト視覚皮質の脳活動を調べた。 実験では、刺激周辺部に一定の速度で運動する刺激、中心部に運動する縞刺激を呈示した。中心部の縞刺激については、周辺と同方向あるいは逆方向に運動する条件、物理的に静止する条件を用いた。結果、視覚運動処理に関連するhMT+野の活動が、誘導運動の影響で縞刺激が動いて見えると高くなり、止まって見えると低くなるといった誘導運動知覚と対応するパターンを示した。この傾向はV1野など初期の領野に比べ、hMT+野において最も強く見られた。この結果は、hMT+野における脳活動と主観的な誘導運動の知覚が関連することを示唆する。この成果については、神経科学の国際会議であるSociety for Neuroscienceにおいて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
既に当初計画したfMRI実験およびデータ解析が平成23年度中に既に終了しており、現在研究成果を原著論文として投稿する段階に至っていることから、当初の予定より大幅に速く研究目的を達成できている。加えて、米国Stanford大学と短期の共同研究を行い、申請者は拡散テンソル画像法という新しい手法のデータ解析法を平成23年度中に習得した。平成24年度においては、当初計画になかった拡散テンソル画像法を用いた研究計画を実施することも期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に行ったfMRI実験のデータに関して、集団受容野解析と呼ばれる詳細な解析を施すことで、誘導運動に関連する脳活動と大脳皮質における視野表現の関連性に関する検討を行う。また、眼球運動計測実験を並行して行うことで、眼球運動がfMRIデータに与えた影響に関する検討を行う。さらに平成24年度では、拡散テンソル画像法を用いた、視覚神経系における神経線維連絡の解析手法と組み合わせ、視覚情報処理の神経基盤に関して解剖と機能の両面からアプローチを進める。
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