研究課題
本年度は、極域環境表層と極域湖沼堆積物の微生物群集構造を比較し、地球環境変動による極域微生物の多様性と生物地理への影響を定性的に評価することを目的とした。具体的には次のような二つの課題を実施した。1)南北両極域に分布する微生物のインベントリー(現在の微生物多様性を定性的に評価):南極湖沼試料から微生物のゲノムDNAを抽出し、rRNA遺伝子や機能遺伝子をPCR法によって増輻した。得られたPCR産物を精製した後、そのPCRクローン・ライブラリーを構築した。また、構築したクローン・ライブラリーから目的の遺伝子断片が導入されたクローンを無作為に選び、その遺伝子の塩基配列の全長を決定した。その結果、南極湖沼底の表層から461種のバクテリアおよび78種の真核生物が検出された。なお、数回の再試を行ったものの、アーキアはPCR検出限界以下であった。特筆すべき点として、南極湖沼には、これまで知られていたコケや藻類だけではなく、新規な菌類や、クマムシ、ワムシ、および線虫のような微小動物の遺伝子が検出され、多種多様な生物系統が存在することが分かった。2)極域湖沼の堆積物への応用(過去の微生物多様性を定性的に評価):極域湖沼の堆積物中に保存された過去の微生物DNAについても、実験1と同様の手順で多様性解析を行うことで、現在と過去の生物多様性の比較が可能となる。本年度は、湖沼堆積物からのゲノムDNA抽出法を検討、最適化した。以上の成果の一部は、雑誌論文2件、国際学会でのポスター発表2件で公表された。
2: おおむね順調に進展している
現在までに極域微生物のインベントリーについては、当初予定していた南極湖沼バクテリアの多様性解析を終え、国際誌Polar Biologyに論文が公表された。なお、真核生物の多様性解析についても結果をまとめ、現在国際誌に論文を投稿中である。
今後は、過去の微生物多様性に関する情報を取得するため、湖沼堆積物から微生物のゲノムDNAを抽出し、PCRクローン・ライブラリー法を用いて多様性解析を実施する。分子生物学的手法については、本年度中にその手法の選定、反応条件の検討と最適化を終えた。従って、次年度の研究計画の変更、および、研究を遂行する上での大きな問題点などはない。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Polar Biology
巻: 35 ページ: 425-433
10.1007/s00300-011-1090-2
月刊地球総特集オマーンに湧出する高アルカリ泉から学ぶアルカリ環境の地球・生物資源科学
巻: 390 ページ: 159-163
http://home.hiroshima-u.an.jp/hubol/members/nakai.htm