研究概要 |
メタボリックシンドロームの基盤病態の一つとして全身の軽度の慢性炎症が想定されている。我々は、肥満脂肪組織において、転写抑制因子activating transcription factor 3(ATF3)が、飽和脂肪酸により活性化された炎症シグナル伝達系Toll-like receptor 4(TLR4)/NF-κB経路の負の調節因子として作用することを報告した。(Circ.Res.105:25-32,2009)、ATF3の作用機序を明らかにするため、初年度に引き続き、ATF3結合分子として独自に同定した遺伝子発現抑制に関わるヒストンメチル化酵素Xに着目した。Lysozyme Mプロモーターによりマクロファージ特異的にCreリコンビナーゼを過剰発現するトランスジェニックマウス(Lysozyme M-Creトランスジェニックマウス)とX floxedマウスを交配し、マクロファージ特異的X欠損マウス(Mac-X KO)を作製した。Mac-X KOから採取したX欠失腹腔内マクロファージに急性炎症刺激(細菌外毒素LPS(リポ多糖)の活性中心であるlipid A添加)を行い、炎症性サイトカインの遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。野生型マクロファージでは、炎症性サイトカインの遺伝子発現上昇とともに、ヒストンメチル化酵素Xの遺伝子発現レベルは減少した。X欠失マクロファージでは、野生型に比し、lipid A刺激での炎症性サイトカインの発現が亢進することを見出した。また、DNAマイクロアレイ法により、野生型およびX欠失培養マクロファージの遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析したところ、X依存性炎症性サイトカインとX非依存性炎症性サイトカインが選択的に存在していた。現在、クロマチン免疫沈降法により、Xが炎症性サイトカインの遺伝子発現を直接制御しているか解析中である。また、免疫沈降法を用いて、ATF3-X複合体の構成を明らかにし、ATF3の炎症抑制作用にXがどのように関わるか明らかにしていく予定である。
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