研究課題/領域番号 |
11J40085
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
韓 松伊 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(RPD)
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キーワード | 核内受容体 / 脂質代謝 / 転写 |
研究概要 |
平成24年度はER-LXRクロストークのより詳細な分子機構の解析とともに、生体内での生理作用についてマウス個体を用いた解析を進めた。ER-LXRクロストーク以外の核内受容体問クロストークを探索するため、LXR.と結合する核内受容体を免疫沈降法により検討した。その結果、ヘテロダイマーを形成するRXRと一部の核内受容体との結合を確認することができた。また、ERはLXRには結合するが、RXRとは結合しないことがin vitro binding gassayにより示された。従って核内受容体間の結合は一部の受容体でのみ特異的なアミノ酸や構造を認識し結合することで互いの生理作用に影響を及ぼしていることが示唆された。ER-LXRクロストークはマウス肝臓内で見られ、LXRによる肝臓の中性脂肪蓄積をERがリガンド依存的に抑制することができる。そこで代謝に関わる他の臓器でのER-LXRクロストークについても検討を行った。その結果、脂肪組織、筋組織、およびマクロファージにおけるER-LXRクロストークは見られなかった。このことからER-LXRクロストークは肝臓特異的なものであることが示唆された。さらに、肝臓特異的ER欠損マウスを作製し解析を行った結果、肝臓特異的ER欠損マウスにおいてはERリガンド依存的なLXR抑制作用が見られなかった。このことから、肝臓中ERはLXRと直接結合複合体を形成し、LXRの転写活性化および脂質蓄積を抑制していることを明らかにすることができた。 平成23年度に同定した新規ERリガンドについても肝臓特異的ER-LXRクロストーク機構によりLXR転写活性化及び脂質蓄積作用を抑制していることを示すことができた。新規ERリガンドはER作用を示さないため、乳癌や子宮癌といった副作用を示さないことが予測されている。さらに、肝臓特異的に脂質蓄積を抑制できるということから脂質代謝疾患治療薬、特に脂肪肝治療薬としての可能性を見出すことができた。今後は肝臓特異的ER-LXRクロストークの生理的意義を検証するとともに新規ERリガンドの作用機序や有用性についての研究を発展させる必要性が挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに明らかにした核内受容体ER-LXRクロストークの分子基盤をもとにマウス個体を用いた解析が順調に進んでいることが挙げられる。全身ER欠損マウスのみならず、肝臓特異的ER欠損マウスの作成、解析まで研究が発展し、組織特異的制御を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに、予定していた3年間の計画をおおむね推進することができた。その内容としては、肝臓特異的ER-LXRクロストークの分子機構と脂質蓄積に及ぼす影響の解明、及び新規ERリガンドによる肝臓脂質蓄積の緩和作用についての機序解析が挙げられる。従って次年度は本研究課題をさらに進展させるべく、今後の課題として残っているER-LXRクロストークの生理的意義を探るための研究を計画している。その手法として、野生型及び肝臓特異的ER欠損マウスを用いて高脂肪食負荷実験を行い、ER-LXRクロストークによる分子機構と脂質蓄積への影響を解析していく予定である。
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