昨年から引き続き、感情状態をはじめとした個々人の内的特性が知覚処理に影響を及ぼす現象について、実験を実施した。昨年度明らかにした、通過/衝突事象(二つの黒色小円が接近し、互いに重なり合い、再び離れるといった運動事象)を用いた、ポジティブ気分よって多感覚統合処理が促進される現象について、さらに追加実験を実施した。前回の実験では、ポジティブな気分を誘導する場合には、自身が当該気分を感じる音楽を使用し誘導をおこなったのに対し、ニュートラル条件ではノイズを聞かせていた。しかし、音楽とノイズでは、時間構造をはじめ、音構造の差異が顕著であることから、ポジティブ条件で使用した音楽を逆再生したものを、コントロール条件として新たに実験をおこなった。その結果、逆再生条件では、ちょうど、ポジティブ条件とノイズ条件の中間にデータが位置し、ポジティブ条件ともノイズ条件とも有意な差は認められず、ポジティブ条件より多感覚統合が低減されるなどの効果は認められなかった。被験者の気分状態を分析すると、逆再生条件では、ちょうど他の2条件の中間に位置しており、逆再生音楽によって若干のポジティブ気分誘導が生じてしまったことを意味する。ポジティブ誘導条件に対応するコントロール条件として、より適切な音源を引き続き検討し、また、ネガティブ気分の誘導も実施して、効果の信頼性を高める必要がある。 さらに、他の多感覚事象も、通過/衝突事象と同様に気分による影響をうけるか調べるため、マガーク効果ならびにダブルフラッシュ現象を使用し、検討することとなった。またその際には、感情的処理に重要な影響をおよぼす神経学的要因も明らかにするため、セロトニンとランスポータ遺伝子多型により参加者を群分けする予定であった。しかしながら、本人の就職により、刺激作成の段階で、一時、中断されるこことなった。この課題については、引き続き、関係機関で継続される。
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