本年は1940~50年代中国におけるドストエフスキー関連資料の収集・整理を行い、①「中国におけるドストエフスキー作品翻訳・関係資料」年表作成の作業を進めた。重点をおいたのは国立シンガポール大学図書館での資料収集・調査である。本資料を分析し、民国期中国のドストエフスキー翻訳の頂点が1940年代にあることを考察した。とりわけ1946~53年に文光書店から出版された『陀思妥以夫斯基選集(ドストエフスキー選集)』(調査では11冊)の存在と、ロシア語専門家・耿済之の出版活動に重点をおいて調査した。さらに北京大学図書館資料の調査により、これら民国期の翻訳の一部が文革後の1977年以降に再版されていることを確認し、現在の中国のドストエフスキー作品受容の基礎が民国期にあることを考察した。これらの調査結果は、耿済之および出版社の活動を跡づけた②論文「1940年代中国におけるドストエフスキー作品の翻訳について-耿済之の翻訳活動を中心に」として執筆を進めた。 また、こうした1940年代中国のドストエフスキー翻訳状況が中国文学に及ぼした具体的な影響について、路ling(1923-1994)の作品「谷」「財主底児女們」を中心として分析を行い、③論文「1940年代中国におけるドストエフスキー文学の影響-路ling作品を中心に」の執筆を進めた。以上、上記の1940~50年代中国に関する研究に、昨年までに行った清末~1930年代中国におけるドストエフスキー文学受容の研究結果を加え、④『20世紀前半中国におけるドストエフスキー文学受容史』としてまとめる作業を行った。
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