研究課題
生物時計は、昼夜の変化に適応するために、様々な活性を24時間周期で自律的に振動させる細胞内分子機構である。藍色細菌の生物時計はKaiA、KaiB、KaiCからなっており、ATP存在下においてこれらの3つのタンパク質が相互に作用しあうことで自律的な時間振動を生み出すことができる。KaiBは進化の初期では2量体であり、藍色細菌において時計として進化した結果、4量体を形成するようになったのだと考えられる。4量体構造と機能の関わりを検証するために、昨年度、C末端酸性残基(95-108)を欠失させた変異体KaiB、KaiB_<1-94>を作製した。KaiB_<1-94>は2量体と見積もられた。KaiB_<1-94>はin vitroで野生型と同様にリズム発振する機能があることが示された。In vivoでの遺伝子発現リズムを検証した結果、KaiB_<1-94>はリズムを発振する機能はあるものの、野生型KaiBに比べ振幅が弱くなることが明らかになった。このことから、KaiB_<1-94>は時間情報の出力に欠陥があるのではないかと考え、主要な出力系のタンパク質であるSasAへの影響を調べた。すると、KaiB_<1-94>はSasA-KaiC複合体の形成を阻害することが分かった。KaiB_<1-94>および野生型KaiB、SasAのKaiC_<DD>(リン酸化状態のKaiCを擬似した変異体)に対する結合親和性を調べると、結合親和性は高いものから、KaiB_<1-94>>SasA>野生型KaiBであった。SasAは藍色細菌のみにみられるタンパク質なので、KaiBはSasAとの競合関係によって2量体から4量体に進化した可能性が考えられる。
3: やや遅れている
2012年度は、出産および育児のため8ヶ月間の休業を取得したため、研究の区的の達成度は交付申請書の記載よりも遅れている。昨年度分離した藍色細菌時計タンパク質KaiBの2量体型変異体(KaiB_<1-94>)を用いて解析を進めた。KaiB_<1-94>は、これは、生物時計として機能するためには、KaiBが4量体である必要がないことを示しており、KaiBの進化を考える上で非常に興味深い結果である。
24年度の研究において、KaiB_<1-94>はSasA-KaiCの複合体形成を阻害することを示した。これは、KaiBがSasAを介した時間情報の伝達に関わっていることを示すとても興味深いデータであり、今後の解析が必要である。今後、KaiB_<1-94>以外の2量体型KaiB変異体を分離し、SasA-KaiC複合体の阻害効果がKaiBのオリゴマー構造に由来していることを確認する必要がある。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
J Biol Chem.
巻: 287 ページ: 29506-29515
10.1074/jbc.M112.349092.