研究概要 |
<研究成果の内容> 大型単結晶を必要とする中性子非弾性散乱実験に向けて,S=5/2をもつハイゼンベルグ型擬二次元三角格子反強磁性体Rb_4Mn(MoO_4)_3の単結晶の大型化と純良化を行った.これまでRb_4Mn(MoO_4)_3は,吸水性がある為に,試料の作成が難しく,最大で1×1×0.5mm^3程度の単結晶しか出来なかった.今回,結晶作成過程において可能な限り水分を排除出来る様にグローブボックスなどを用いて育成を行った結果,中性子実験を行える程度にまで成長してきた.また,面間がファンデルワールス結合で隔てられている為,非常に良い二次元性をもつ擬二次元三角格子反強磁性体MAl_2S_4(M=Mn^<2+>,Fe^<2+>,Co^<2+>)について,単結晶育成を行い,その構造と低温物性を調べた.その結果,幾何学的フラストレーションをもつ低次元性と,磁性イオンとAlイオンのmixingによるサイトの乱れの為に0.4Kの低温に至るまで,磁気秩序は見られないことが分かった.この他,Rb_4Mn(MoO_4)_3の関連物質である一次元反強磁性体K_4Cu(MoO_4)_3の構造と低温物性を調べ,この物質が非常に良い一次元性を有するこの系のモデル物質になり得ることを明らかにした. <研究意義,重要性> 擬二次元三角格子反強磁性体の理論的研究は1980年代から盛んに行われてきたが,実験的には,モデル物質の欠如から幾何学的フラストレーションが基底状態に与える影響や基底状態に多くの課題が残されている.これらの解決の為には,不純物などの乱れのないクリーンな系におけるモデル物質が必要不可欠である.我々が現在取り組んでいる上記の物質は,二次元三角格子反強磁性体や一次元反強磁性体の典型例となる可能性を大いに秘めており,それらの普遍的性質を解明する上で重要となる物質であるといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は中性子実験用の単結晶育成に重点を置いて研究を行っており,大型単結晶を要する非弾性中性子散乱実験を行えるまでになってきた.また,新しい幾何学的フラストレーションを有するハニカム格子磁性体Ba3CuSb2O9についてESR測定を行い,その研究成果を共著論文としてScienceに投稿し受理された.
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今後の研究の推進方策 |
単結晶の大型化は成功しつつあるが,関東大震災の影響により実験を行う予定であった日本原子力開発機構の研究用原子炉JRR-3が利用できな状況である.今の所,原子炉の再稼働の目途が立っておらず,中性子実験の予定は未定である.従って,現在は単結晶の大型化と純良化に努め,原子炉が再稼働した時に備えて,すぐに実験を行える様に準備しておく.また,米国オークリッジ国立研究所やフランスのILL,スイスのPSIなどの実験施設での中性子実験を視野に入れている.この他,新しい幾何学的フラストレート磁性体の物質探索を積極的に行い,磁化測定や比熱測定などの巨視的物性測定を行う.
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