研究概要 |
軟体動物の貝殻の色彩は, 従来は貝殻色素化合物の側鎖や結合タンパクの種類により大きく変わる複雑なものであると考えられていた. しかし, 本年度に貝殻色素化合物のラマン分光分析を網羅的に行った結果, 多くの貝殻色素にはポリエン化合物が関与しており, 更にその色調はポリエン骨格自体の鎖長によりシンプルに規定されることが示された. そこで, 貝殻を作る組織である外套膜で発現しているポリエン関連遺伝子についてホタテガイをモデルとしてEST (expressed sequence tag)解析を行った. その結果, 貝類では今までカキでのみ報告されていたポリエンを分解する酵素の存在が確認された. 更にアコヤガイゲノムからも同酵素の存在を確認した. この結果は, 今後これらの機能解析のための基盤を整えるために重要である. 本年度は更に, 化石貝殻の色素化合物のラマン分光分析を行った. 本研究により, ポリエン色素は, 化石化の続成作用でも分解されるものの基本的な構造は保持されることが示された. 共役二重結合長が6以下のポリエン化合物は可視光では色を呈さず, 紫外線を照射すると蛍光を発することが知られる. 現生および化石の貝殻色素のラマン分光分析により, 色彩情報が失われた化石貝殻に紫外線を照射すると模様が復元できる紫外線色彩復元法において, 蛍光を発する未知の色素残渣の正体はこのポリエン分子の分解産物であると示唆された. 本研究は化石軟体動物の貝殻色素の構造に関する初めての研究であり, 絶滅生物の色彩復元に関し発展が期待される.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で貝穀の色彩変化とポリエンの鎖長が相関すること, つまり, 鎖長が短くなるほど吸収極大が短波長側にシフトするポリエン分子自体の性質で貝殻の色彩が決まる単純な原理が示された. 色素の実態が明らかになったため, 外套膜細胞での関連遺伝子の絞り込みが容易となり, 今後EST解析による色素関連遺伝子の網羅的解析を計画している.
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