無傷の植物では、頂芽が優先的に成長し腋芽の成長は抑制されている。この現象は頂芽優勢と言われ植物生理学では最も古くから知られている現象の一つである。頂芽が損傷して成長することが不可能になると、休眠中の腋芽は頂芽に代わって直ちに成長を始める。頂端分裂組織から分化・成長していた腋芽が休眠に至る仕組みを理解することは頂芽優勢の分子機構を理解する上で重要かつ不可欠であると考え、腋芽の休眠過程に関わる遺伝子群を単離・同定することにより、腋芽の「休眠への移行段階」において遺伝子レベルで何が起きているかを明らかにしようとした。 これまでの定量的PCR法を用いた解析により、休眠過程に特異的に発現する遺伝子、PsAD4、を同定していた。PsAD4遺伝子の発現解析をin situ hybridization法を用いて行った結果、PsAD4遣伝子は休眠中の腋芽及び頂芽切除によって成長を開始した腋芽では発現が見られなかった。一方、休眠を開始した腋芽全体に発現が見られた。この結果は、PsAD4遺伝子が腋芽全体に作用していることを示している。また興味深いことに、休眠過程の腋芽と主茎とをつなぐ維管束にも強い発現が見られた。この結果は、PsAD4遺伝子の発現様式が維管束を通して制御されている可能性を示している。 腋芽を含む地上部形態は茎頂分裂組織から作られる。植物の地上部形態構築には小分子RNAを介した遺伝子発現制御が必須であることが、近年、明らかになってきた。そこで、多様な小分子RNAがどのように下流の遺伝子発現制御を行っているのかを明らかにすることで、腋芽形成の分子機構を明らかにしようと試みた。その結果、植物種ごとに小分子RNAを介した遺伝子発現制御が多様であることを示唆する研究結果が得られた。
|