研究課題/領域番号 |
11J56123
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
角田 智志 山形大学, 大学院・医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 活性酸素 / 酸化ストレス / SOD1欠損 / マウス胎仔線維芽細胞 / 細胞周期 / 細胞死 / p53 / DNA傷害 |
研究概要 |
本研究の目的は生体内の種々の代謝によって生じる活性酸素種が引き起こす細胞周期停止および細胞死機構の解明である。酸素分子から生じる活性酸素種の一つであるスーパーオキシドを消去するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)1は細胞内の酸化還元状態を正常に維持する上で必要不可欠な酵素と考えられている。本研究は細胞内酸化ストレス亢進が引き起こす細胞周期停止および細胞死機構の詳細を解明することを目的とし、SOD1欠損マウス胎仔由来線維芽細胞(MEF)を用い検討を行った。 SOD1欠損MEFは通常培養条件である37℃、5%CO_2、20%O_2環境下で速やかな細胞死を示した。この細胞死は培養酸素濃度を2%に下げることにより回避することができた。しかしながら、SOD1欠損MEFの細胞増殖能は2%O2培養下においても著しく低下し、細胞老化様の細胞周期停止を示した。細胞周期停止および細胞死を引き起こすことで知られるp53遺伝子の発現量は、野生型MEFと比較してSOD1欠損MEFで著しく上昇し、2%O_2培養と比較して20%O_2培養したSOD1欠損MEFでさらに増加した。p53遺伝子の下流遺伝子で細胞周期停止を引き起こすp21遺伝子の発現量は2%O_2および20%O_2培養したSOD1欠損MEF双方で増加した。しかしながら、細胞死経路でのみ活性化されるp53タンパク質の15番目のセリン残基のリン酸化は20%O_2培養したSOD1欠損MEFのみ著しい増加を示した。また、DNA傷害マーカーの一つであるヒストンH2Axの135番目のセリン残基のリン酸化は20%O_2培養したSOD1欠損MEFで顕著に増加した。これらの結果からSOD1欠損MEFでは高濃度酸素培養下においてDNA傷害により誘導されるp53遺伝子の細胞死経路活性化による細胞死が引き起こされ、低濃度の酸素環境においてもp53遺伝子およびp21遺伝子の発現量増加による細胞周期停止が引き起こされる事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である細胞内酸化ストレス亢進による細胞周期停止および細胞死機構をSOD1欠損マウスを用いることにより解明することができた。本研究は現在、専門誌へ投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終目標の一つに哺乳類着床前胚の体外培養効率の向上に伴うヒト不妊治療の成績向上が挙げられる。本研究はモデル動物を用いた解析により一定の成果をあげているものの、ヒトへの応用の可否は未だ議論の余地がある。今後はヒトの不妊治療への応用をより強く意識し、現在確立している実験手技および精度の向上を図ることを目標に研究を推進していく。
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