研究課題/領域番号 |
11J56402
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西川 純司 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 家庭空間 / 窓ガラス / 衛生実践 / 統治性 / 広告表象 |
研究概要 |
住宅における窓ガラスの受容から近代日本における家庭空間の編成の分析を主題とする本研究の目的は、2つに分けられる。1)統治性研究の観点から、近代日本における家庭空間の形成を窓ガラスという具体的な技術との関連で明らかにする。2)家庭空間の編成とグローバルな社会との連関を、窓ガラスという技術の視点から、確かめる。 1)の本年度の成果として、まずは窓ガラスが家族の健康管理と深く結びついて受容されていたことを実証的に明らかにした。具体的には、1920~30年代の住宅言説において「明るさ」という言葉が衛生的・家庭的な意味をもつ言葉として用いられ、それが家庭での衛生実践の規範の一つとなっていたことを示した。成果は、9月の日本社会学会大会で口頭発表したほか、修正を加えたものを『ソシオロジ』誌に投稿、掲載された。これらは、近代日本の家族を統治の手段として捉える先行研究の知見を踏まえたうえで、そこで技術が果たした役割に着目した点で意義をもつと考えられる。次に、国家による公衆衛生実践と家庭における窓ガラスの受容との関連を検討するために、1月に国会図書館に行き、史料調査を実施した。収集した史料はすでに整理し、次年度に学術論文として発表する予定である。 2)の研究成果として、本年度は米国における史料調査を実施した。3月に渡米し、議会図書館などで史料調査を行った。とりわけ、国内では入手困難な史料を中心に調査を実施し住宅記事や広告を収集した。'広告からは、日本の住宅雑誌が同時代の米国の住宅雑誌から大きく影響を受けている可能性が示唆されたが、より精緻な分析は次年度に行う予定である。こうした分析は、家庭空間というドメスティックな空間が、ナショナルな次元だけでなくグローバルな位相との重層的な関係性のもとで成り立っていたことを明らかにするうえで重要である。また、収集した史料の一部をデジタル化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の1)近代日本における家庭空間の形成と窓ガラス受容との関連については、窓ガラスの受容過程を家庭の衛生実践との関連で分析し、その研究成果を学会および学術論文として発表することができたことから、順調に進展していると言える。ただ、公衆衛生の視点からの分析については、史料調査の実施と予備的な分析にとどまったことから計画以上の進展があったとまでは言えない。また、2)家庭空間の編成とグローバルな社会との連関に関しても、計画通り米国での史料調査を実施したことから、問題なく研究を進めることができている。これらの理由から、現在までのところ、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる本年度は、前年度に収集しておいた史料にもとづいて、窓ガラスの受容と都市レベルでの公衆衛生の展開との関係について検討する。また、前年度の米国調査を通じて収集した史料の分析を進めることで、家庭というドメスティックな空間がいかにグローバルな位相との関わりのなかで形作られたのかを検討する。これら分析結果を前年度の成果と合わせて考察することで、本研究課題である近代日本における家庭空間の編成の解明を目指す。さらに、次期研究として予定していた、窓ガラス技術との関連からとらえた家庭空間における主体性の分析に前倒しで着手する。これは前年度に収集した史料がその分析を十分に可能にするものであったからであり、本年度に補充調査を行うことで問題なく進展させることができるど思われる。近代ジェンダー規範と結びついているこうした主体性のうち、とりわけ男性的主体のあり方に関する分析を行う。
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