研究概要 |
本研究では,自然界に見られるパターン形成の仕組みを数理的観点から考察し,シンプルな数理モデルで現象を捉え,それらが持つ自己組織化機構を活かした新たな応用の提案を行ってきた。 パターン形成過程を表現した数理モデルには,柔軟性を持った最適化,自己組織化機構などがある。それらの特性を活かした応用モデルとして,反応拡散系が持つ自発的なパターン形成の性質を利用した,数値計算用メッシュの新たな生成手法を開発した。この研究成果は,ある現象が持つ特性を抽出した数理モデルを別の応用法に活かすというものである。これは新規手法の開発という側面だけではなく,現象の数理的機構を理解する理学的興味にとどまることなく工学的応用にも一歩を踏み出した点に大きな意味があると考える。本成果については,学術論文誌にて発表を行った。 生物の作り出すパターンには,適応性,ロバスト性など様々な特徴がある。例えば,様々な動物の内骨格である骨の形状は,「最小材料で最大強度を実現する」と言われているが,具体的な仕組みについては今なお不明な点が多い。パターン形成過程の直感的な理解のため,そのダイナミクスを表現するシンプルな数理モデルを構築し,シミュレーションを中心とした解析を行った。結果は,生理学的な実験と同様の知見が得られ,モデルの再現性が示された。生物の適応的恒常性には,互いにせめぎ合う拮抗する作用素が重要であることが示唆された。この数理的機構は,冗長性による対障害特性を兼ね備えながら,(資源,コストを鑑みたある種の)最適化を可能とする仕組みとして,今後新たな応用や発展を期待できる。また,更なる研究発展の方向として,他の自然現象でも同様の数理モデル化による理解が可能であると考えている。非線形に振る舞う現象を線形表現によって数理モデル化することで,現象のより深い理解とその機構を利用した応用法の提案をすることができると考えている。
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