研究分担者 |
堀 寛 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60116663)
五條堀 孝 国立遺伝学研究所, 生命情報研究センター, 教授 (50162136)
七田 芳則 京都大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60127090)
倉谷 滋 岡山大学, 理学部, 教授 (00178089)
岡田 典弘 東京工業大学, 生命理工学部, 教授 (60132982)
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研究概要 |
本プロジェクトは、生物多様性の分子機構を解明するとともに、新しい分子進化学の構築を目的とする。今年度の主な成果は以下の通りである。 ◆1)「宮田」昨年度に引き続き、多細胞動物の遺伝子多様性の起源を知る目的で、多細胞動物に最も近縁とされている立襟鞭毛虫からチロシンキナーゼ(TK)およびチロシンホスファターゼ(PTP)遺伝子のクローニングを行い、分子系統解析を行った。今年度は特にドメインシャフリングによる遺伝子多様化を明らかにすることを目的として解析を行った。その結果、遺伝子重複は立襟鞭毛虫と後生動物の分岐前に遡るが、ドメインシャフリングはその分岐周辺で起こり、立襟鞭毛虫と後生動物の系統で一部、独自のシャフリングにより遺伝子を作ったことが明らかになった。こうした遺伝子構造の違いが一方で多細胞化に成功し、他方で単細胞の状態を維持したこととどう関わるか、今後の課題である。そのために今後より多くの遺伝子族の分子系統解析が必要となろう。2)最古の生物進化において、遺伝子水平移動が3つの超生物界の間に頻繁に起きていたことが明らかになりつつある。これは最古の時代に於ける生物多様性の分子機構として興味深い。遺伝子水平移動を起こす要因を解明する目的で、全ゲノムの塩基配列が決定されている40種の生物の間でゲノムを比較し、全生物が共通に持つ遺伝子に対して分子系統学的解析を行った。その結果、遺伝子水平移動の起こり易さは、タンパク質のサブユニットを構成する遺伝子が互いに隣接し、一群となってゲノムに存在することと強く相関することが明らかになった。この性質から、現時点まで遺伝子水平移動を経験していない遺伝子が同定でき、それらの遺伝子を使って全生物の分子系統樹が推定された。 ◆「阿形」プラナリアの脳で発現する遺伝子の機能解析から,脳をつくる基本的な遺伝子プログラムの解読を行った。otx遺伝子群については,otxAの遺伝子ノックアウトプラナリアにおいて視神経の形成不全を生じること,otxB,otpの遺伝子ノックアウトをしても脳が形成されるが一部の神経の走行に乱れが観察され,それらの遺伝子群は脳の形成というより,脳神経のアイデンティティ形成に関与していることが示された。これらの下流遺伝子候補のクローニングに成功したので,脳をつくる遺伝子ネットワークの解読を開始した。 ◆「倉谷」脊椎動物の歴史の中で、最も初期に
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生じた大きな形態変化である「顎」をもたらした要因を探るため、ヤツメウナギ類をはじめとする脊椎動物の胚発生を観察し、分子レベルでの現象を比較し、さらに実験発生学的な機能解析を行った。その結果、胚発生過程のどこまでが共通に進行するのか、どの遺伝子発現に違いが見られるのかについて、鍵となる現象の候補が見つかった。 ◆「七田」視物質の多様化が視細胞の応答特性に及ぼす効果を検討するため、錐体型に機能変化させた桿体視物質を発現するホモマウスを作製した。現在、分光学的に"錐体型ロドプシン"の発現を確認し、応答特性の違いを解析している。また、ロドプシンスーパーファミリーに属する受容体のG蛋白質共役特異性を検討した結果、第3ループが同じ機能を担うように収斂進化したことが強く示唆された。 ◆「岡田」アフリカ産カワスズメ科魚類(シクリッド)を用いて、種分化・種形成に関わる遺伝子の解析を進めている。僅か1万2千年の間に数百種へと種分化を起こしたアフリカ、ヴィクトリア湖産シクリッドの持つ種特異的な遺伝変異を検出することで種形成のメカニズムを検証する。hagoromo,bmp4,lwsの各遺伝子に種特異的な変異が検出され、種形成への関与が示唆された。 ◆「堀」トランスポゾンTol-2はメダカの自然突然変異体であるアルビノ変異から分離された因子である。これまでにlacZ活性を指標としてその転位の頻度をはかる系を構築し、これをもとに転位酵素mRNAのin vitro合成、転位の結果としての切り出しにはたす転位酵素の役割を決定した。さらに転位後のゲノムへの挿入についても転位酵素が機能することを明らかにした。 ◆「五條堀」脳・神経系の進化を遺伝子発現制御のレベルから明らかにすることを目的として研究を進めた。材料として、プラナリアを用いた。プラナリアは扁形動物に分類され、分化した脳・神経系を有する動物のうち進化的にもっとも古いものの一つである。プラナリアの脳における遺伝子発現のパタンをESTとDNAマイクロアレイの技術により明らかにするとともに、その結果をヒト、マウスなどの他の生物種における結果と比較解析を行った。 ◆「長谷川」本研究では、統計学的に基礎づけられている、最尤法による分子系統樹推定法の開発を行なうことを目指した。その際、生物系統学上の実際の問題に取り組むことを通じて、分子系統樹推定法の問題点を浮き彫りにさせ、実際問題の解決と方法の開発の両方を同時に行なうように努めた。実際の系統学上の問題としては、主にミトコンドリア・ゲノムにコードされている蛋白質のアミノ酸配列データを解析することにより、真獣類の系統進化の問題を扱った。本研究により、分子系統樹推定において適切な置換モデルを用いることが重要であること、また生物種のサンプリングが十分でないと、偏った推定が行なわれる危険性が大きいことが明らかになった。 隠す
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