認知と行動の霊長類的基盤

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12002009
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 松沢 哲郎 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (60111986)
• 研究分担者: 田中 正之 京都大学, 霊長類研究所, 助手 (80280775) ; 友永 雅己 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (70237139)
• キーワード: チンパンジー / 認知発達 / 参与観察法 / 親子関係 / 離乳 / 道具 / 自己認識 / 認知的制約

研究概要

本研究は、チンパンジーの認知機能や親子関係の発達を、日本の研究室とアフリカの野生場面で平行して解析することをめざした。日本では、新たにあかんぼう1個体が加わって、0歳から37歳までの3世代15個体からなるコミュニティーができている。主要な研究対象である2000年に誕生した3組のチンパンジー母子について、2歳後半から3歳後半にかけての時期の成長のようすを参与観察法でつぶさに検討することができた。この間の主な発見は、3つにまとめられる。1)2歳直前に始まった道具使用が定着し、多様な道具を使うようになりつつある。コンピュータ制御の弁別学習課題も数百試行を安定してできる。またヒト検査者との対面場面でも、多様な課題を安定してこなせるようになった。その結果、「コンピュータ課題を解いてお金を入手し、それを自動販売機に入れて、選択肢の中から好きな食べ物を選ぶ」といったような、一連の系列からなる認知課題をおとなと同様にこなせるようになった。2)逆に、3歳児ではできない認知課題も明確になってきた。生後まもなくから継続しているにもかかわらず、鏡に映った自己像認知(自己認識)ができない。一組の石をハンマーと台にしたいわゆる「レベル2道具」の習得はまだできない。積み木のもっている物理的な属性(たとえば円柱と立方体)を識別して、適切な面を選択して積むこともできない。認知的制約が具体的に示された。3)最後に、3歳後半になっても、親子のきずながきわめて深い事実も浮かび上がってきた。3個体とも離乳せずまだ授乳が続いている。夜も同じ場所で寝ている。こうした知見を、野生チンパンジー群(ギニアのボッソウ)と対比させて研究いる。ただ、12月に流行性呼吸器疾患で5個体が死に群れは大きな被害を蒙った。その一方で、母親や祖母による死児の世話など、これまで知られていなかったきわめて興味深い事実が明らかになりつつある。

研究成果

• [文献書誌] Matsuzawa, T.: "The Ai project : historical and ecological contexts."Animal Cognition. 6. 199-211 (2003)
• [文献書誌] Hayashi, M.: "Cognitive development in object manipulation by infant chimpanzees"Animal Cognition. 6. 225-233 (2003)
• [文献書誌] Myowa-Yamakoshi, M.: "Preference for human direct gaze in infant chimpanzees(Pan troglodytes)."Cognition. 89. 113-124 (2003)
• [文献書誌] Imura, T.: "Perception of depth from shading in infant chimpanzees(Pan troglodytes)."Animal Cognition. 6. 253-258 (2003)
• [文献書誌] Tanaka, M.: "Finger drawing by infant chimpanzees(Pan troglodytes)."Animal Cognition. 6. 245-251 (2003)
• [文献書誌] Tanaka, M.: "Visual preference by chimpanzees (Pan troglodytes) for photos of primates measured by a free choice-order task : implication for influence of social experience."Primates. 44. 157-165 (2003)