研究課題/領域番号 |
12002012
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(共通施設) |
研究代表者 |
木下 一彦 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 教授 (30124366)
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研究分担者 |
伊藤 博康 浜松ホトニクス株式会社, 筑波研究所, 専任部員(研究職)
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キーワード | 一分子観察 / 一分子操作 / F_1-ATPase / 蛍光性ATP / 蛍光エネルギー移動 / 磁気ピンセット / ATP合成 / ミオシン |
研究概要 |
本研究は、新規課題の採択に伴い2004年6月14日をもって廃止することとなった。以下は、この時点までの研究実績である。未完成部分の多くは、新規課題に取り込んで完成させていく予定である。 1.F1-ATPaseの回転機構 昨年度、磁気ピンセットを用いたF1-ATPaseの強制逆回転によるATP合成を報告したが、定量性にはまだまだ周題が多い。本来1回転に付き3個のATPができてもいいのだが、これまで一番よいデータでも2個程度にしかならなかった。一つの理由は、大きな磁気ビーズは抵抗が大きいため、ゆっくりしか回らないことにあった。そこで磁気ピンセットを改良し、磁力を上げたところ、同一回転速度においてより多くのATP合成が起きるようになった。また、ADP濃度を上げることも重要なことが分かってきた。現時点では実際に回転しているF1分子の数の見積もりにまだ大きな誤差があるため、1回転あたりの合成数に不確定さが残っているが、定量化の見通しが立ちつつある。 F1の回転子であるγサブユニットの先端(F1の中に深く入り込んだ部分)を削っても回転にそれほどの支障がないという結果が他の研究室から出ているが、少なくとも我々の使っている好熱菌由来のF1の場合、さらに短く削ってしまってもちゃんと回転することが分かってきた。結晶構造からは、固定子サブユニット(α3β3の筒)との相互作用が示唆されている領域であり、意外な結果である。 我々のF1の最高回転速度(ステップ中の瞬間速度でなく長時間にわたる平均速度)は毎分8000回転であることをすでに報告してあるが、これは室温(23度)でのものだった。好熱菌では至適温度が70度近辺なので、この温度に上げればもっと速く回る可能性がある。技術的な問題から回転の直接測定にはまだ成功していないが、加水分解活性の温度依存性の解析などから、70度における回転速度は室温の10倍をはるかに超えることが示唆された。一方低温側では回転が急速に遅くなり、全体として、回転機構には大きな温度依存性があるようである。 F1の3つの結合部位に結合したヌクレオチドの数が1-2-1-…と変化しながら回転するのか(bi-site説)それとも2-3-2-3…なのか(tri-site説)、いまだに最終決着が付かないが、ATP加水分解速度のきちんとした解析から、bi-siteで全く活性がないという説(Seniorが提唱)は成り立ちそうもないことが分かりつつある。作業仮説として、実際のメカニズムはbi-siteとtri-siteの中間的な、結合ヌクレオチド数が常に2個である、というメカニズムを考えているが、ATP濃度にかかわらずこのメカニズムで回るのかどうか、まだ結論には至っていない。蛍光性ATPアナログや蛍光エネルギー移動を用いた研究を含め、様々な角度から実験的検討を進めている段階である。 2.ミオシンVとミオシンVIの歩行機構 2本足を使って歩くと考えられているミオシンVとミオシンVIの歩行機構につき研究を進めてきたが、昨年度は、ミオシンVより脚の短いミオシンVIのほうが歩幅が大きいという、一見矛盾する結果を報告した。他の研究室からミオシンVIの脚は実は長いという結果が出てきたので、我々の結果も基本的にはこれで説明できる。しかしミオシンVIの長い脚はおそらく柔らかく、後ろ向きに負荷がかかる状況では、従来提唱されてきた歩行機構に従えば逆行してしまうはずである。同様の問題を抱えたキネシンも含め、持ち上げた足の爪先の上げ下げが制御されるとすれば負荷に逆らった前進を説明できることを提唱した(爪先上下機構)。すなわち、爪先が下がっていれば後方でなく前方に着地しやすくなる(ヒトの歩行も同様)。従来のレバーアーム説は着地した方の足首の曲げのみに注目するが、持ち上げた足の足首の動きも同様に、あるいはそれ以上に、重要であるという説である。 ミオシンVに関しては、歩行説を直接確かめるため、脚の動きを可視化する試みを始めた。これまでに、ラベルのための脚の遺伝的改変に成功した。
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