1.語彙と文法発達の関係の解明:Fodor(1983)の言語モジュラリティー仮説では、語彙と文法の間には垂直的断絶があるとされている。それに対し、Bates et al.(1995)は、健常児では語彙と文法の季離がなく、両者は同じものではないが、同じ学習プロセスで歩をすすめ、文法発達は臨界的な語彙の確立によるとしている。本研究では、CDIs日本語1998年版を使用した18-30ヶ月児658名の横断研究と、16名の1ヶ月間隔の縦断研究から、語彙の増大と文法の出現の関係を明らかにした。文法の出現は年齢よりも語彙サイズに依存し、日本語獲得児では、格助詞の獲得には、約100語以上の語彙サイズが必要であり、また、格助詞の出現が語彙の獲得を急速に促進していた。特に格助詞出現後の動詞の増加が大であった。語彙と文法は別のモジュールではなく、相互に作用して発達していくことが示された。 2.名詞優位・動詞優位に及ぼす母親の言語入力の検討:子どもの初期の語彙獲得で、比較言語学的な先行研究では、英語獲得児の名詞優位は母親の名詞優位に起因し、韓国語獲得児や標準中国語獲得児の母親の動詞優位は子どもの動詞優位の一因であることが報告されてきた。本研究での一語発話段階から統語段階(12-24ヶ月児31名)の日本語獲得児の子どもと母親の発話の玩具場面での分析は、子どもはタイプ、トークンとも名詞優位であったが、母親の発話をタイプ、トークン、形態複雑さ、文末の語、実用機能(動作志向・名前志向の発話)から分析すると、すべての指標で動詞優位の発話であった。これは、子どもの語彙獲得での名詞優位・動詞優位は、母親の言語入力は大きく作用せず、子どもは、知覚的基盤により語彙を獲得する傾向があることが示された。子どもの語彙(語意)獲得を規定する要因は1つではなく、子どもと母親側のいくつかの要因が相互に作用していると考えられる。
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