研究概要 |
Y染色体はその大半の部分が父から息子へと伝達される。したがって,Y染色体上の多型を解析することはヒトの父系起源の解明につながる。我々は,日本人で見られるY染色体多型を利用して他民族と日本人との関係を研究している。本年の研究では,Y染色体を従来より細かく分類することを目的に,日本人で多型性を示すマイクロサテライトマーカーを3つ見いだし,ハプロタイプを決めた。 具体的には,Y染色体由来のYAC(yOX38,yOX219)よりコスミドライブラリーを作成し,(CA)_<20>オリゴヌクレオチドをプローブにスクリーニングを行った。得られた(CA)nリピートを日本人検体で検討した結果,3つのCAリピートが多型性を示した。これらをそれぞれ,DXYS241,DXYS265,DXYS266として登録した。これらの多型で102人の日本人と,18人の米国白人,17人の米国黒人を解析した。DXYS265は3つのアレル(162,164,166),DXYS266は2つのアレル(212,214),DXYS241では5つのアレル(223,225,227,229,231)が見られた。2つのハプロタイプ(162-212-227,162-212-229)は日本人,白人,黒人に共通に見られた。 CAリピートの安定性について,父-息子日本本人ペア61組を解析したが変化した例は見られなかった。したがって,Y染色体上の(CA)_nリピートは比較的安定に伝わっていると考えられた。 塩基置換や特定部位への塩基押入など人類の歴史の中で1回だけ起きたと考えられる多型は系統樹としやすいが,極めて少数の多型が知られているに過ぎない。民族間においてはこのような1回きりのイベントと思われる多型を基本とするのが良いが,民族内の細かい系統樹を作成する際には,今回,解析したようなマイクロサテライトが有用と思われる。
|