本研究は、大不況期(1873-96年)において、インド鉄道建設・経営をめぐる英印両国の政策的対抗のみならずその実態を追いながら、建設・経営主体が国家から私企業(鉄道会社)に再度転換されていく過程を、構造的動態的に明らかにすることを意図した。 第1に、イギリスの海外投資・貿易構造、インド財政、インド鉄道の研究史整理を行いつつ、最近のジェントルマン資本主義論が提示した問題点を明らかにして、本研究の課題と分析視角の有効性を確認した。 第2に、イギリスの議会史料である各種委員会の報告書・証言録、すなわち1870-74年インド財政調査委員会、1878年インド公共事業調査委員会、1878年東インド鉄道に関する調査委員会、1880年インド飢饉調査委員会、そして1884年インド鉄道調査委員会の報告書・証言録を分析して、一次史料に依拠したインド鉄道建設・経営の段階的発展過程を追及した。 第3に、旧インド省図書館所蔵の史料にあたり、イギリス政府(インド省)とインド政庁との間で展開されたインド鉄道をめぐる政策的対抗関係を明らかにした。 以上の検討から、大不況(1873-96年)期におけるイギリス産業の輸出停滞、ロンドン金融市場の資金過剰、飢饉対策費、アフガン戦争関連の軍事費の急増によってインド財政が危機的状況に陥ったことなどの諸要因が複合的に重なり合って、インド・ルピー為替相場の下落傾向にもかかわらず、ロンドン金融市場に依存したインド鉄道会社の再導入を図らざるをえなかったことを明らかにした。
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