1991年以降、「新経済政策」の下でインドは本格的な経済自由化の時代を迎え、既存の混合経済体制は大きな変容を迫られるにいたっている。第2世代経済改革が叫ばれている現在、インドが直面している最大の課題は、市場経済化の潮流に対応すべく公共部門改革をいかに推進するかということにある。公共部門改革の中で、最も注目されるのが電力部門である。電力部門改革の核心は、州電力庁(SEB)改革を通じてその劣悪な経営内容をいかに是正するかということにある。州電力庁の経営破綻には多くの要因が絡んでいるが、ポピュリズムの下での不合理な料金構造の形成、料金の徴収・回収に係わるインド社会のモラル・ハザードが最も注目されるべき要因である。 SEB改革は既得権を有する勢力の抵抗に直面するため、外部からの梃入れなしに、その実現を図ることは現実問題として極めて困難である。SEBの機構改革として現在進行しているのが、発電、送電、配電業務の分離、発電部門の分割、配電区域の分割と配電・小売業務の民営化である。このうち経営立直しのために重要な意味を持つと考えられるのが、配電区域の分割・民営化である。もちろん経営立直しのためには、電力料金の改訂、とりわけ農業用電力料金の引上げに向けて、受益者負担の原則をどこまで適用できるのか極めて重要であるが、料金の決定は独立性の高い州電力規制委員会に委ねられるということで方向性が形成されているため、問題の焦点は料金回収のあり方に移っている。料金回収の徹底を図るという観点からすれば、配電部門の民営化は当然推進されて然るべきものであり、すでに部分的に一部の州では実施されている。電力密度の低い広大な農村地域の存在を考えれば、採算面からしてそれを州内全体に適用することは困難であり、電力部門の民営化は長期的観点で、段階的に実施される見込みである。
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