研究概要 |
大規模・高集約型畜産業は、高収穫量が得られる反面、多量の家畜ふん尿のために環境への負荷を増大する。この解決のために、家畜ふん尿を堆厩肥として農地還元するリサイクルが試みられている。しかしリサイクルシステムにおける窒素、リン酸、カリの収支に関する知見は多いが、重要と考えられる微量要素を含む各種元素の過不足およびエネルギー消費量に関しては殆ど評価されていない。そこで、本研究では重金属等の各種元素収支を調べるとともに、リサイクルに要するエネルギー量を求め、各種元素の環境負荷量とエネルギー負荷量がともに最少になるリサイクル運営システムを明らかにすることを目的とする。最終年度にあたる平成12年度では、エネルギーおよび労働力の評価を行って、リサイクルを行うために費やす農家一戸レベルのエネルギーおよび賃金を求めた。 名古屋大学附属農場の厩肥連用圃場(5.0a)を対象に、農作業の各項目(耕耘、畝縦、マルチ、播種、間引き、病虫害防除、雑草防除、防鳥、収穫、収穫残差処理)に必要な農業機械と労働者数および作業時間を聞き取り調査し、機械作業および人力作業による消費エネルギーと賃金を求めた(Table1)。賃金は1000円/hr/人とした。人力作業にかかるエネルギーは、ヒト(30代男性)の基礎代謝量1.00kcal/minを基に農作業におけるエネルギー代謝率(RMR)から消費エネルギーへと換算した。その結果、農家一戸単位では、厩肥施用すると労働力、賃金が15%増加した。厩肥散布作業にかかる賃金、労働力が大きいことを示している。一方エネルギーに関しては、厩肥施用はあまり影響しなかった。 Table1の結果から、一般的な面積当たりの作業能率の値を用いて,通常の農家規模の面積における必要機械、労働者数、作業時間を推定した(Table2)。また、現在の日本農業では畜産農家と耕種農家が別々に専業化しているので、堆厩肥リサイクルのためには、堆厩肥の運搬が必要不可欠である。ここでは、耕種農家が20t/haの割合で堆厩肥を使用すると仮定し、スイ-トコーンおよびキャベツを対象に、日本および愛知県の平均作付面積、雉厩肥の運搬距離、および平均的道路交通速度から、通常農家が用いる2t積みトラックで運搬するのに必要な時間とガソリンを算出し、賃金とエネルギーを求めた3,その結果、100km以内での堆厩肥運搬は、賃金・エネルギーに対する影饗は小さく、むしろ堆厩肥応用の有無が大きく影響した。 今後、家畜ふん尿を焼却処理または下水処理した場合との比較、さらに化学肥料の製造プロセスとのエネルギー比較を行って、堆厩肥リサイクルのための問題点を評価する予定てある。
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