研究概要 |
微生物菌体に重金属を吸着させてバイオソルベントとして利用することを目的として、微生物に重金属結合能を付与する分子育種を試みている。これまでに筆者らは酵母の細胞表層GPIアンカー蛋白質Cwp1とHisクラスターをタカアミラーゼに組み込んだ融合蛋白質(TAA-His-Cwp1)および主として細胞壁に局在するインベルターゼとメタロチオネインとの融合蛋白質(Suc2-Cup1)を設計し、酵母の細胞壁中に発現することとNi,Cuイオンの吸着能が1.6〜3.5倍に増加することを見出している。 大きな菌塊を形成する糸状菌をバイオソルベントととして利用するため、我が国では産業的に重要な麹菌(Aspergillus oryzae)を宿主として用いた。糸状菌における細胞表層工学のシステムを構築するために、糸状菌の細胞表層に局在するハイドロフォービンをコードする遺伝子をA.oryzaeから2つクローン化し、それぞれhyPA,hypBと命名した。さらに麹菌からmRNAを調製し、hypA,hypBに対応するcDNAを単離し、塩基配列を解析した。予想されるHyPA蛋白質はN末端に21アミノ酸のシグナル配列を含む151アミノ酸、HypBは21アミノ酸のシグナル配列を含む145アミノ酸からなっていた。双方ともにハイドロフォービンに特有の一定の法則に従って並ぶ8つのCys残基および疎水性領域が保存されていた。 Northern blot解析によりhypAおよびhypB遺伝子の培地による発現制御の解析を行ったところ、両遺伝子とも液体の富栄養培地では発現されなかった。小麦フスマを用いた固体培養およびグルコース欠乏培地で培養した時には大量のmRNAの発現が認められ、厳密な発現制御が行われていることが明らかとなった。ハイドロフォービンを細胞表層アンカーとして用い機能ペプチドの発現への道が拓けると期待している。
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