細胞表層の糖鎖の細胞間認識への関与は明らかであり、糖鎖のタンパク質による分子認識機構の解明の重要性が増してきた。ところが、タンパク質・タンパク質間の分子認識と異なり、糖とタンパク質の結合様式は水素結合に大きく依存しており、特異的レセプターの取得も一般に困難である。本研究では、糖鎖認識機構解明の一助として糖鎖を認識するペプチド配列を取得することを目的とした。また、ファージディスプレイライブラリーから水素結合〓たる結合様式であるペプチドリガンドを取得するための方法論の確立を目的とした。認識様式が水素結合に大きく依存し、分子認識が困難である中性糖(キチンあるいはセルロース)をターゲットとした。ペプチドライブラリーとして、繊維状ファージの表面抗原にランダムペプチドを提示したファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを用いた。(1価型および5価型の両者を使用した。)パニングを行う際のマトリクスとして、疎水性相互作用の少ない、親水性マトリクスを用いた。chito-oligoagaroseをターゲットとして、5価型ファージライブラリーをスクリーニングしたところ、ラウンドを重ねる度に宿主大腸菌への感染率の低下が観測された。マトリクスを磁気ビーズに変えた場合にも同様の傾向が認められた。そこで、繊維状ファージのg3p抗原にトリプシンインヒビターの一部分を融合タンパク質として提示し、突起部分にランダムペプチド配列を有する1価型のライブラリーに変更した。パニングに際し、疎水性相互作用による非特異吸着を減じるために、60%EtOHで洗浄を行い、尿素溶出により回収した。6ラウンド終了後のファージをSPRセンサーチップ表面に固定化し、オリゴキチンとの相互作用を調べたところ、特異的吸着が認められた。
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