物性材料として興味が持たれているケイ素鎖が連結した高分子であるポリシランは、ケイ素鎖のσ共役の程度を調節することでその物性を制御できることが知られている。ケイ素原子自体の基本骨格が異なる高配位ケイ素原子をケイ素鎖に組み込むことで、ケイ素鎖のσ共役の程度が大きく変化するものと期待できる。一方、これまでに有機鉛二価化合物に関する研究から、分子内にチオカルボニル基を有する14族元素化合物では、チオカルボニル基の中心14族元素への分子内配位によって通常の配位状態よりも高配位状態をとりやすいことを明らかにしている。そこで高配位オリゴシランに関する研究の一環として、対応するジクロロシラン、テトラクロロジシランに対してジチオカルボキシラート塩を作用させることにより、一つのケイ素原子上にそれぞれ二つのジチオカルボキシラート配位子を導入し、チオカルボニルによる分子内配位を受けた高配位モノシランおよびジシランを合成した。X線解析によりモノシランおよびジシランそれぞれのチオカルボニル基の構造を明らかにしたところ、結晶状態でのケイ素原子と置換基間の結合のσ^*軌道へのチオカルボニル硫黄原子の配位が見いだされ、ジチオカルボキシラート配位子内で若干の非局在化の寄与があることを明らかとした。ケイ素原子はモノシランでは結晶中で6配位であり、ジシランでは7配位状態をとっていることがわかった。特にジシランでは二つのチオカルボニル基の硫黄原子がそれぞれ二つのケイ素原子に配位するという特徴を有している。また、各種スペクトルから溶液中ではケイ素原子は4配位状態であることが明らかとなり、ケイ素-硫黄間の相互作用は高いフレキシビリティーを有していることがわかった。特に、7配位ジシランではチオカルボニル基が二つのケイ素原子に配位しており、新規な高配位オリゴシランへの設計指針となり得る結果が得られた。
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