研究概要 |
ブタ腎臓中鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ(MACD)は補酵素としてFADを持つフラビン依存型の酵素である。MACDは分子量約19万の4量体酵素であり、サブユニットあたり1分子のFADを結合している。MACDは脂肪酸のβ-酸化の初発段階,すなわちアシル-CoAチオエステルを酸化してtrans-2-エノイル-CoAを生成する反応を触媒する酵素である。今回,アシル鎖C6-C10のものを特異的に触媒するブタ由来のMACDおよびその基質アナログ(3S-C8-CoA)との複合体のX線構造解析を行い,活性部位における'タンパク-基質-補酵素'の相互作用を調べた。アシル鎖C8基質の3位のCをSで置き換えた3S-C8-CoAは,MCADに結合し,遷移状態アナログを生成する。3S-C8-CoAは酵素活性部位において,基質と同様に,反応過程の初期段階である2位のプロトンの引き抜きを受け,アニオン型リガンドとして配位する。この複合体は,基質の3位水素がFADにヒドリドとして移動する前段階に対応する。 酸化型FADのイソアロキサジン環と3S-C8-CoAのS1,C1^*,O1^*,C2^*,S3^*で構成される平面は互いに平行で,この平面に垂直な方向から見ると、FADのN10,C10,C4A,N5位が、3S-C8-CoAのO1^*,C1^*,C2^*,S3^*位とそれぞれ重なっていた。また4箇所の間で,酸化型イソアロキサジン環のLUMOとアニオン型3S-C8-CoAのHOMOが適切な対称性をもって重なっており、電荷移動錯体の形成が定性的に説明できる。このHOMO-LUMO相互作用が、イソアロキサジン環とリガンドとの空間配置を決定する安定化要因になるとともに,基質からフラビン環へのヒドリドの移動がこの相互作用を通して起こると考えられる。
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