緑色光合成細菌には、湖泥の深いところ(通常約10〜20m)で成育している種があり、その光合成アンテナ部内の色素分子はバクテリオクロロフィル-e(BChl-e)である。このBChl-eは、従来の緑色細菌のアンテナを構成する色素分子BChl-cの7-メチル基を酸化して7-ホルミル基にした分子構造を取っているが、自己集積に重要な3^1位の水酸基と13位のケトカルボニル基と中心マグネシウムとは保存されている。成育している水深が10m以下であるために、太陽光はわずかしか届かず、かつその波長領域も500〜600nm付近に限定される。このために、この菌は400〜600nmに大きな吸収帯をもっていて、その限定された可視波長領域の弱光をなるべく効率的に吸収するようになっている。通常の緑色細菌は、500〜600nm付近には大きな吸収帯をもたず、あってもカロテノイドによる小さな吸収帯であることが多い。そのため、この>500nmに見られるピークもカロテノイドによるものと当初は思われていたが、カロテノイド合成を阻害した菌でもほぼ同じ吸収帯が見られたことや、色素のみを自己会合させても同様の吸収帯が見られたことから、>500nmに見られるピークはBChl-eの自己会合体によるものであることが判った。つまり、限定された500〜600nmの波長の光を吸収するために、菌が環境応答して、アンテナ色素分子の構造を一部改変(7-CH_3→7-CHO)したものと考えられる。さらに、以上のような物性は、モデル色素分子を用いた人工系でも確認された。7-CH_3→7-CHOへの分子構造の変化が、その自己会合体の超分子構造に大きな影響を与えず、(BChl-c)_nと同様の構造を取っていることも我々のモデル実験から明かになった。
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