研究概要 |
浮遊帯溶融法で育成されたシリコン(Fz.Siと略記)をプロチウム雰囲気中で加熱後急冷し、測定温度約7Kでその光吸収スペクトルを測定した。その際、凍結欠陥の熱的安定性を解明するために等時焼鈍実験も行った。まず、高純度Fz.Siを急冷した場合、2192,2203及び2223cm^<-1>に光吸収ピークが観測された。これらは、点欠陥と結合したプロチウムの局在振動による光吸収である。等時焼鈍をすると、前2者は450℃でほぼ消滅し、一方のピーク強度は最大になることが見いだされた。2223cm^<-1>ピークは1個の原子空孔と4個のプロチウムの複合体(VH4)による吸収ピークであることが別の実験で確認されている。前2者の原因であるプロチウム・点欠陥複合体は同定出来ていないが、点欠陥は原子空孔であろう。2223cm^<-1>ピーク強度の急冷温度依存性から、原子空孔形成エネルギー4.0 eVが求められた。この値は、最近第一原理計算で理論的に求められている形成エネルギーにほぼ一致する。したがって、我々が開発した「プロチウム雰囲気中で加熱・急冷後、プロチウム・点欠陥複合体による光吸収を測定する」という手法は、シリコン中の熱平衡点欠陥研究に有効である。これで1960年代からの課題が解決される見通しが出来た。 あらかじめプロチウムを添加したシリコン結晶を、130Kで電子照射した後、光吸収を測定した。その結果、プロチウム・点欠陥複合体による吸収強度の点欠陥依存性が、室温照射の場合とは異なることが見いだされた。すなわち、プロチウム・格子間シリコン複合体の濃度が少なく、準安定プロチウム分子やプロチウム・原子空孔複合体の濃度が大きい。この結果は、130Kでは原子空孔やフレンケル対の移動度が、格子間シリコンのそれより大きいことを示唆する。これらの知見は、全く新しい。これからは、もっと低温における照射研究をすすめる。
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