金属材料中への水素原子の侵入については、化学工学レベルでは水素吸蔵材料との関連でこれまで多くの研究がなされてきており、各種の環境条件と吸蔵量については詳細なデータが存在する。しかしこの吸蔵反応を金属原子と水素原子とのプロチウム化合物の生成という視点から見た場合は、その微小クラスターの構造をはじめ、個々の物性についてもほとんど知られていないのが現状である。また吸蔵させる金属および合金のマトリックスにしても、これまでは単結晶が結晶粒の大きい多結晶のバルク材が使われているのみで、近年開発された各種の先端材料の形態である超薄膜、ナノ結晶材料および人工格子という系での吸蔵特性の研究は皆無であった このような背景の下、特定領域研究第3年度目の本年は、これまでのPdクラスターへの水素吸蔵およびプロチウム生成に関する研究とは別の新しい研究課匙を行った。一つは水素吸蔵量が大きい金属間化合物として最近注目を浴びているLaNi_5を単結晶膜、多結晶膜、ナノスケールのクラスターの3種類の形態に作製し、水素吸蔵およひプロチウム生成の研究試料とした。二つ目はこのLaNi_5単結晶およびナノ結晶への水素吸蔵およひプロチウム生成過程を数ミリセカンドの時間分解能で原子直視し研究した。このような観察によって、LaNi_5の粒内およひ1nmのレベルの粒界でおこるプロチウム生成のメカニズムを原子レベルで明らかにしたばかりでなく、水素吸蔵に伴うPdやLaNi_5の結晶粒の構造変化を1コマ1コマずつとらえられ、今後これらのナノ材料を水素吸蔵体として用いるための重要な知見を得ることができた。
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