ポルフィリン類の特異機能は、その剛直な大環表p-共役系に起因しており、特に、二つ以上のポルフィリンユニットが集積すると、特異なp-電子構造が形成されることが知られている。その典型例が光合成のスペシャルペアであり、そのモデルとしてダブルデッカー型ポルフィリン錯体が注目されている。従来、この錯体に関しては、dynamic NMRの実験から『ポルフィリン環間の強いp電子相互作用のため、二枚の向かい合ったポルフィリン配位子は相互に回転しない』とされていたが、最近になって我々は、ポルフィリン配位子のねじれ構造により発現するキラリティーを利用することにより、相互回転する場合があることを見出した。本年度の研究において、回転能の外部刺激による制御を目指して、錯体のレドックスの影響を調べたところ、ある種のCe錯体を用いた場合、錯体の還元により約300倍回転速度が増大することがわかった。一方、酸化による回転能の変化を、Zr(IV)錯体について調べたところ、100倍程度回転能が低下することがわかった。すなわち、配位子の相互回転を錯体のレドックスによって制御可能であり、これは本錯体が「分子モーター」としてのポテンシャルを有していることが示すものである。
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