研究概要 |
この研究では、二核錯体[MM'(bpmp)(pyren)_2](ClO_4)にピレンを2分子組み込むことで、分子内エキシマー蛍光を発する錯体を創生し、構造とエネルギー移動との関係を究明した。核間電子移動が蛍光スペクトルに及ぼす影響に注目するためにFe(II)-Fe(III),Zn(II)-Zn(II),Co(II)-Co(III),Ni(II)-Ni(II)錯体をそれぞれ合成した。主配位子Hbpmpは七座二核形成配位子である。2つの中心金属に、ピレンカルボン酸が2分子架橋している。そして種々の濃度の錯体のアセトニトリル溶液を調製し、蛍光スペクトル(励起波長365nm)を測定した。これらの蛍光スペクトルは、濃度が高くなるにつれてモノマー蛍光が減少し、エキシマー蛍光が増大していることより錯体分子間でエキシマーが生成している。低濃度でもエキシマー蛍光が観測されていることから分子内エキシマー蛍光も存在していると推定される。10^<-3>モル濃度では亜鉛錯体の蛍光は、ほとんどエキシマー蛍光のみになっていることは注目してよい。錯体のエキシマー相対強度は、いずれも1-ピレン酢酸のものより大きいことから、これらの錯体ではエキシマー蛍光がモノマー蛍光よりも優先的に発している。特に、なかでも亜鉛錯体はエキシマー蛍光のモノマー蛍光に対する強度比が大きかった。鉄錯体、ニッケル錯体、コバルト錯体では発光強度そのものは大きく減少しているが、濃度依存性は観測されており、分子間エキシマーが生成している。 錯体中の金属が蛍光に与える影響をみるため、上記の4錯体と1-ピレン酢酸の10^<-4>Mにおける蛍光スペクトルを比較した。すると、錯体は1-ピレン酢酸そのものの蛍光よりも強度がZn(II)-Zn(II)錯体だけはこの消光がほとんど観測されなかった。そこで、1-ピレン酢酸よりアルキル鎖の長い1-ピレン酪酸、アルキル鎖をもたない1-ピレンカルボン酸を用いて錯体を合成することにした。Zn(II)-Zn(II)の1-ピレン酪酸錯体は、非常に高いエキシマー蛍光相対強度と低濃度でも大きな蛍光を示した。
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