研究概要 |
異常原子価錯体は,その名の示すように珍しい酸化状態の錯体であるため化合物例も少なく,その反応性や機能が詳しく研究されている例は希である.白金の3価は,2つの白金原子間に結合ができてはじめて安定化する酸化状態であり,中心金属イオンの還元に伴い白金-白金間結合の解裂も起こるので,2価や4価に見られない3価特有の反応性や機能が存在するに違いない.例えば,ピリジンチオラト架橋二核白金錯体は_+2価と_+3価の間の酸化還元が容易に起こるため,3価錯体と金属硫化物イオン(WS_4^<2->)を反応させると直鎖状のS_4^<2->イオンが2つのランタン型ユニットを架橋した4核錯体を生成する.この反応はピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体がイオウと親和性が高いことを示していると考えられる.二核白金(III)錯体の新たな反応性を調べるために本年度は,(1)ピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体と水素との反応,(2)ピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体を触媒とするピリジンチオールのC-S結合の切断に焦点について研究を行った. (1)5-メチルピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体と水素とをDMF中,150℃で反応させると,架橋配位子がC-S結合の切断とともに水素化されて3-ピコリンが遊離する.この反応の水素圧依存性を調べたところ,水素圧の増加とともに生成するピコリンの量が増加した. (2)ピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体が水素と反応し,架橋配位子の一部のC-S結合が切断されてピコリンが生成することが分かったので,ピリジン-2-チオールのC-S結合切断に対するこの二核白金(III)錯体の触媒活性を調べた.比較のために,5-メチルピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体の他に5-メチルピリジンチオラト架橋二核白金(II)錯体[Pt_2(5-mpyt)_4]と5-メチルピリジンチオールを配位子とする2価の単核錯体[Pt(5-mpytH)_4]Cl_2についても触媒活性を調べた.その結果,単核錯体は全く触媒活性を示さないこと,2価の二核錯体はある程度の触媒活性を示すが,溶液中のピリジン濃度が最大時の触媒活性は3価錯体の1/4程度であることが分かった.
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