研究概要 |
第18染色体長腕(18q)は肺がんを含む様々ながんの進行期に高頻度に欠失することから、18qにはがんの悪性度を規定する未知のがん抑制遺伝子が存在すると考えられる。我々は以前、LOH解析により、肺がんにおける18q欠失の共通領域は18q21内約3Mbの領域であることを明らかにし、肺がん細胞株Ma29において当該領域内に染色体ホモ欠失(両相同染色体完全欠失)を見い出した。本研究では、この未知のがん抑制遺伝子の単離を目的とし、ホモ欠失座の塩基配列310,921bpを決定し、物理的地図を作製した。その結果、欠失のサイズは約200kbであること、欠失領域内に、新規遺伝子D29、既知遺伝子ME2、そしてSmad4遺伝子上流のCpGアイランドが存在することが明らかになった。肺がん細胞株46例を対象にD29、ME2、Smad4遺伝子の発現、変異の検索を行った。その結果、検出された変異はD29遺伝子のミスセンス変異1例、Smad4遺伝子のフレームシフト変異1例のみであり、D29、ME2、Smad4遺伝子の発現はMa29を除く全ての肺がん細胞株でみられた。また、Ma29細胞株ではSmad4遺伝子の発現は著しく低下していた。また、欠失領域外にある候補がん抑制遺伝子であるDCCについても変異の検索を行ったが、1例のミスセンス変異が検出されたのみであった。以上の結果から、次のように考察した。(1)Smad4、P29、DCCは一部の肺がんで異常を生じているが、肺がんにおける18q21欠失の主要な標的がん抑制遺伝子ではない。(2)Ma29細胞株におけるホモ欠失はSmad4遺伝子のプロモーター領域の失活を引き起こしている。(3)ホモ欠失領域内の未知の遺伝子、もしくは18q21領域内の他の領域に存在する遺伝子が主要な標的がん抑制遺伝子である可能性がある。
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