研究概要 |
高等植物ソース器官のカルビン(光合成炭素還元:PCR)サイクルのチオール酵素に着目し、光合成を含めた炭素代謝におけるこれら酵素の位置づけと調節機構の生理的意義の解明を目的とする。本研究ではラン藻(Synechococcus PCC7942)のチオール酵素FBP/SBPaseを葉緑体または細胞質に導入したタバコ形質転換植物を作製し、ソース/シンク器官にける光合成能および炭素代謝に及ぼす影響を検討した。 葉緑体にFBP/SBPascを導入した形質転換タバコでは、光強度の異なる培養条件下(水耕栽培、400μE/m2/sまたは800μE/m2/s、相対湿度,60%、25℃)において光合成能の上昇、カルビンサイクル代謝中間体の増加、さらに成育の促進、ソース器官でのシヨ糖含量、シンク器官でのデンプン含量の著しい増加が認められた。これら一連の現象はFBP/SBPase発現レベルに対応していた。一方、細胞質にFBP/SBPaseを導入した形質転換植物は、T1世代において野生株との間に生育の差は認められなかったが、上葉のヘキソース量が野生株と比較して顕著に増加していた。以上の結果より、FBPaseおよびSBPaseはカルビンサイクルの律速因子の一つであり、葉緑体内でのFBPaseおよびSBPase活性の増加に伴って、光合成炭素固定をソース/シンク器官での炭素代謝が大きく変化することが明らかになった。現在、明期/暗期において転流関連酵素への影響を検討している。細胞質にFBP/SBPaseを導入した形質転換体では、野生株との間に成育の差はなかったが、糖代謝への影響が認められた。
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