我々は、神経管の領域特異的分化機構のモデルとして、マウス胚後脳部に注目してきた。この領域には、胎生期に一過的にロンボメアと呼ばれる、はっきりとした区画構造が現れる。ロンボメアでは細胞の移動の制限があり、よく似た脳神経が周期的に形成される。このような中枢・末梢神経の領域特異的分化機構の解析のため、この領域に障害を持つマウスホメオボックス遺伝子変異マウスの解析と、ロンボメア特異的発現をする遺伝子群の単離、という2つのアプローチをとっている。 マウスホメオボックス遺伝子・Hoxa3の変異マウスは、舌咽神経の形成が異常になる。これは詳しいマーカー遺伝子発現の検討から、その感覚成分の前駆体である神経堤細胞の移動、鰓弓プラコード細胞の移動の方向がおかしく、しばしば神経管にまで感覚神経軸索を伸ばせなかったり、隣の迷走神経に合流してしまったりする。また、蛍光色素による軸索連絡経路観察により、舌咽神経の運動神経も発生してくる位置は正常だが、軸索を末梢に投射する際に間違って迷走神経に軸索を伸ばしてしまうことが明らかになった。Hoxa3遺伝子はこれらの舌咽神経前駆体細胞のみならず、神経管の周囲の間充織にも発現が見られるため、どの細胞でのHoxa3の発現が重要なのか、正常胚もしくはニワトリ胚への前駆体細胞の移植実験を通じて明らかにしてゆく予定である。 ロンボメア特異的発現をする遺伝子群の探索としては、大阪大学生体細胞工学センターの大久保公策助教授の協力により、胎生9.25日マウス胚後脳からのランダムcDNAクローン5253個の塩基配列を定した。これらと他の組織由来のCDNA塩基配列データとの比較・RT-PCRによる発現量比較を行い、最終的にin situ RNA hybridizationにより、ロンボメア特異的発現をする遺伝子3個を得た。現在、これらの遺伝子の機能解析に向けて、遺伝子破壊・異所性発現などの方法を試みている。
|