研究課題
(1)Oct-3/4による未分化状態維持機構を明らかにするために、薬剤投与によりOct-3/4の発現が消失して100%栄養外胚葉に分化するES細胞ZHBTc4を用いて、その未分化状態を維持するために必要なOct-3/4の機能ドメインの検索を行った。この結果、機能的DNA結合ドメインと一つの機能的転写活性化ドメインの組み合わせで十分であることが明らかになった(図参照)。このとき、Oct-3/4のC末転写活性化ドメインとDNA結合ドメインからなる変異型分子で未分化状態を維持されたES細胞では、Oct-3/4の下流遺伝子の一つであるlefty-1の発現が殆ど消失していた。このことは、一部の下流遺伝子の発現には特定の転写活性化ドメインが必要であること、またこれらの遺伝子の発現はES細胞の自己複製には必要がないことを示す。(2)Oct-3/4の発現増加による原始内胚葉への分化誘導機構を明らかにするために、そのために必要なOct-3/4の機能ドメインの検索を行った。この結果、未分化状態維持と同様に、DNA結合ドメインと一つの機能的転写活性化ドメインの組み合わせで十分であることが明らかになったが、興味深いことにDNA結合能は必要ではなかった。このことは、この分化誘導現象が、これらのドメインが他の蛋白と相互作用することによって引き起こされていることを示唆している。(3)Oct-3/4の発現減少による栄養外胚葉への分化誘導機構を明らかにするために、この現象への関与が考えられる転写因子Cdx-2との相互作用について解析を行った。Cdx-2の発現は未分化ES細胞では全く検出されないが、Oct-3/4の発現が減少すると速やかに検出されるようになる。そこで、この遺伝子の発現制御領域を解析したところ、この遺伝子の発現が、自身の産物で自己活性化されうること、およびこの活性化をOct-3/4が阻害しうることを見いだした。更に、ES細胞におけるCdx-2の強制発現は、部分的にではあるが栄養外胚葉への分化を誘導した。これらのことは、Oct-3/4がCdx-2の発現を抑制することにより、栄養外胚葉への分化を阻止している可能性を示唆している。
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