研究概要 |
生体の発生、分化を制御していると考えられている各種の転写調節因子のなかでも、POU転写調節因子群はその構造においてHomeoドメイン及びPouドメインという特徴的な部分をもつことで分類される。本研究は、これらのPOU転写調節因子群の哺乳類の神経系の発生における役割の解明を目的としている。POU因子群の遺伝子が欠損したマウスを作成し、解析することによりPOU転写調節因子群の機能の解明が期待でき、すでにPOU因子ClassIIIに属する、Brn-1,Brn2及びBrn4については変異マウスの作成を終了している。高度に分化した神経系の細胞は分裂能に乏しく生体外で培養することは難しい。変異マウスを使って解析を行うことの有利な点は、遺伝子欠失の影響を発生、分化の段階を追って直接生体内で解析できる点にある。ES細胞を使ったジーンターゲティングは近年、増々注目を集めている方法であり、神経特異的POU転写調節因子群のジーンターゲティングは世界的にも報告はない。 ClassIIIPOU因子の一つであるBrn1欠損マウスのヘテロ接合体は正常であり、ホモ接合体は生後24時間以内に全て死亡する。また、Brn2欠損マウスのホモ接合体は、生後間もなく死亡し、数種の視床下部ニューロンが特異的に欠失していることを解明した。一方、Brn-1,Brn-2の発現が、中枢神経系の広範な部位にわたるのに対し、これら各の単独変異体の示す異常は限定されたものであった。この事実は、Brn-1とBrn-2が、機能的な代償性を有し、両者に共通な中枢神経系における機能を解明するためには、Brn1欠損マウスとBrn2欠損マウスのかけ合わせによって二重変異マウスを作成する必要があることを示している。実際に、二重欠損マウスを、掛け合わせにより作成したところ、単独欠損マウスでは見られない、中枢神経系における、広範な異常が観察された。特に、嗅球、大脳皮質、小脳に見られる異常は顕著であり、Brn-1とBrn-2が、これらの領域の構造形成に必須である事が明らかになった。
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