研究概要 |
コリシンE5は大腸菌細胞内のtRNAを切断するユニークなRNaseである。酵素活性はC末端ドメインCRDにあり、生産菌はインヒビターImmE5を合成して自殺を免れる。E5-CRDは生理的にはTyr,His,Asn,Aspに対するtRNAのアンチコドン1/2文字目間を切断するが、本質的にはRNA制限酵素であった。E5-CRDと、基質アナログであるdGdUあるいはインヒビターであるImmE5との複合体のX線結晶構造解析情報をもとにして、色々なアミノ酸残基を変異させて、コリシンとしての殺菌活性とtRNase活性の変化を調べ、E5-CRDのRNaseとしての反応機構と基質認識機構、及びRNAを分子擬態するImmE5タンパクの相互作用を解析した。 (1)GpUp,ApUp,GpCp,UpGpとE5-CRDを反応させるとGpUpのみが切断され、これが特異的最小基質であることがわかった。 (2)Tyrに対するtRNAのアンチコドンアームを擬した合成RNAを用いて基質特異性を検討した結果、アンチコドン1文字目に相当するGの5'側はUかCが好まれること、2文字目の3'側にはAが好まれること、またステムを開いたRNAは反応性が落ちるのでループ構造が好まれることがわかった。 (3)E5-CRDと基質アナログdGdUとの複合体のX線結晶構造データをもとに、dGdUの塩基部分と相互作用しているアミノ酸残基を推定した。GはTrp102の二重環により、またUはAsp105とArg107で形成する擬似環によりスタックし、それらの周りを複数の水素結合で保持して塩基特異性を発揮している。Trp102、Asp105、Arg107の変異体はいずれも殺菌活性を失った。 (4)以上からE5-CRDにとって、GpUpが特異的な最小基質であること、とくにループ構造中にある(CorU)pGpUpApが基質としては好まれることが推定できた。 (5)Hisをもたない本酵素では、二つのLysを一般酸塩基触媒とする新規の触媒機構が推定できた。
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