本研究は、極微量にしか得られないRNAの高次構造変化を追跡するために、RNAの特定部位に蛍光プローブや光化学反応性官能基等の「分子レポーター」を導入する方法を開発することを目指している。今年度得られた成果は以下の通りである。 1.酵母チロシンtRNAのD-ループ内に光反応性4-チオウリジンを導入した分子を作成した。この分子はUV照射でクロスリンクする前は元の天然型tRNAと同程度のアミノ酸受容能を保持していた。 2.上記tRNAに365nmのUVを照射すると分子内でクロスリンクを起こし、D-ループとT-ループが共有結合で連結されたtRNA分子が作成できた。配列解析の結果、クロスリンク先のヌクレオチドはT-ループ内のC59であることが確認された。 3.分子内架橋を持つ上記分子は通常のアミノアシル化反応条件下で正常にチロシンを受容することができた。従って、少なくとも酵母チロシンtRNAに関する限り、アミノアシル化の過程で酵素との相互作用によりD-ループとT-ループが一時的に解離する必要はないことが示された。この分子がタンパク質生合成過程(EF-Tu/GTPとの三重複合体形成やリボソーム上でのペプチド鎖形成反応)でどのように挙動するかに興味が持たれる。 4.酵母チロシルtRNA合成酵素によるチロシンtRNAのアミノアシル化反応は低KC1濃度では起りにくいことが以前から知られていたが、昨年度から継続している蛍光偏光解消法を用いた測定から、両者(酵素とtRNA)はこのKC1濃度でも結合はしているという興味深い結果が得られた。
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