研究概要 |
(1)大腸菌のtRNA^<Thr>_2はタンパク質合成には必須でないtRNAの一つであると考えられるが、実際、その遺伝子thrWの全部を欠失した株でも、野生型と同様、何の支障も見られず正常に増殖する。我々はthrWの欠失株から高温感受性ミュータントを独立に多数分離し、その中から野生型thrW遺伝子によって高温感受性が相補されるものを二株分離した。その変異部位は、共にhtrB遺伝子にあることを明らかにした。htrB遺伝子は膜を構成するlipid Aの合成において、laurateを付加する酵素のacyl transferaseをコードする遺伝子である。現段階ではメカニズムは不明であるが、tRNA^<Thr>_2がこの酵素の温度感受性と直接的あるいは間接的に何らかの関係を持つことは明らかである。なお、これまでの研究では、tRNA^<Leu>_6の機能と細胞分裂に関与するgidA遺伝子との関連を示唆した[Nakayashiki&Inokuchi,J.Bacteriol.,180,2931-2935(1998)]。 (2)大腸菌の細胞内に多量に存在する低分子RNAの一種である10SaRNAはtmRNAとも呼ばれ、tRNAとメッセンジャーRNAの両機能をもつ。我々はこのRNAをコードするssrA遺伝子の欠失株から、ssrA-依存型温度感受性ミュータント(ssrA遺伝子がないと温度感受性であるが、ssrA遺伝子を導入すると温度非感受性となるようなtsミュータント)を見出し解析してきた。最初、prs遺伝子でそのようなミュータントが見つかったが、ssrA-依存型温度感受性の現象はprs遺伝子に特異的なものか否かを調べるため、更に多数のミュータントを解析した。その結果、4株のssrA-依存型温度感受性ミュータントが分離できたが、そのうちの3株はprs遺伝子以外の遺伝子内の変異に起因するものであった。次に、ある特定の遺伝子(thyA)を選んで、その遺伝子の温度感受性ミュータント中にssrA-依存型温度感受性ミュータントが見出せるか否かを調べた。thyA遺伝子については二重突然変異でそのようなミュータントが生じることがわかった。こうしたミュータントを利用して、in vivoでの10Sa RNA(tmRNA)の機能を研究することが可能となった[Nakano et al.,Molec.Gen.Genet.,in press]。
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