研究概要 |
Hu蛋白質はRNA認識モチーフと呼ばれるRNA結合ドメインを3個有するRNA結合蛋白質であり、神経系の発生と維持に必須であるショウジョウバエのELAVと高い相同性を有することから、Hu蛋白質もまた脊椎動物の神経系の発生や維持などに重要な機能をもつことが示唆されていた。我々の研究グループでは、神経特異的なHu蛋白質(HuB,HuC,HuD)やショウジョウバエのELAVをラットPC12細胞において過剰発現させると、神経突起の伸長を伴う神経細胞への分化が起こることをこれまでに明らかにしてきた。本研究では4種類のHu蛋白質の中でHuRが神経細胞分化誘導能をもたない点に特に着目し、神経特異的Hu蛋白質の分化誘導能を決定する機能ドメインとその中の特異的アミノ酸残基を決定することを目的とした。 HuRのRNA結合ドメインに3カ所の部位特異的アミノ酸置換を導入し、構造を神経特異的なタイプに変更させた。このような置換変異体をPC12細胞に発現させて、神経細胞への分化が見られるかどうかを、神経突起の伸長を指標にして免疫蛍光抗体法によって調べたところ、分化誘導能は有意に上昇しなかった。しかしながら、この変異体に対して、さらにリンカー領域置換を導入すると、細胞内局在が細胞質へと変化することにともなって、神経分化誘導能の顕著な上昇が観察された。これらの結果は、神経特異的なHu蛋白質の神経分化誘導能において、細胞質局在とRNA結合能がきわめて重要であることを示唆している。
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